この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第92巻収録。テキサスの某研究所でKGBのメンバーが心臓手術を受けることになった。この情報をキャッチしたCIAは、執刀医のマシューズに接触。ベトナム戦争時、マシューズがある工作によって徴兵を免れていた事実をネタに、意図的に手術を失敗するよう強要する。脚本:新井たかし
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心臓移植を待つスパイを巡る思惑の衝突
本話では、『スリーパー・エージェント』や『イリーガルの妻』でも度々取り上げられてきた「長期潜入スパイの苦悩」というテーマが、一風変わった形で物語に絡んでいる。
心臓病を患ってアメリカの病院に入院している患者が実はKGBのスパイであり、彼を助けたいソ連側と、彼の素性を見抜いていて手術を失敗させたいCIA側の思惑が衝突するという、大変面白い展開になるのだ。それにしても、不要になったスパイはあっさり切り捨てられるのが世の常である中、KGBは必死に彼の命を救いたがっていた。よほど有能な男だったのだろうか……。
普段と比べて明確な悪人が出てこない話?
今回の標的のマシューズ医師は、使命感に溢れ、倫理を重視する立派な医者として描かれている。不正に徴兵を免れていたり、結局CIAの脅しに屈して患者をわざと死なせてしまったりと、100%高潔という訳でもないが、それでも殺されるには惜しい人物だった。
彼と意見が対立していたスミス所長も決して性悪ではないし、それどころか本話では、平然と殺しを行うKGBのスパイ達でさえ、家族を巻き込まなくてよかったなどと良心的(?)な発言をしているのが面白い。繊細なテーマだけに、根っからの悪人は出さないという方針だったのかもしれない。
「神の領域」をも恐れぬ殺人マシーン
本話のテーマを冷笑するかのように、「神の領域」などものともしないのが我らがゴルゴ13だ。標的が手術の秘密を他人に漏らした時に殺害を決行してほしいという条件で依頼を受けたゴルゴは、わざわざ彼の行きつけの教会の懺悔室で待ち伏せし、神父相手のつもりで秘密を打ち明けた彼を無慈悲に射殺している。
普通のキリスト教徒なら、教会での懺悔は「他人に秘密を漏らした」の対象外とみなすのが自然な考えだろうが、ゴルゴにはそんな理屈は通用しないというわけだ。標的の敬虔な信仰心を逆手に取るとは、まさに神をも恐れぬ殺人機械である。
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東郷 嘉博
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