簡単なあらすじ
改訂版リーダーズ・チョイス収録。モサドの一級工作員サラ・ストームがパレスチナ解放武力同盟に囚われた。つづいて武力同盟はイスラエルに対して捕虜交換を提案、ハイジャック犯・ガブリエレの釈放を要求する。しかしこの交換の裏には、捕虜を出獄させては困る両国の思惑が隠されていた……。
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民族の抗争に終止符を打つ日はくるのか
『Gのインテリジェンス』等の著書で知られ、世界の機密情報に精通する、あの佐藤優氏。彼はイスラエル諜報機関・通称モサドにスカウトされた経験があるという。泣く子も黙るそのモサドに関しては『シェルブールO300』など多数の作品があるが、今回はそのイスラエルに敵対する民族の情報機関が主題となっている。
イスラエルと近隣国との摩擦は建国のプロセスにあるが、その手法には学者のハンナ・アーレントなど一部のユダヤから異論があったものの、ナチスによるユダヤ人虐殺を裁くためには早急に国家が必要だったという事情がある。

すべての民族は温かな心を持っている
冒頭、若い女性が殴られ銃を額に突きつけられる、というショッキングなシーンで始まる。女は捕虜となったモサドのトップエージェント、サラ・ストームだが、この様子を不安げな面もちで見守る少年兵の表情に救われる。敵とは判っていても彼女に行方不明となった自分の姉の面影を重ね、心を痛めている。
サラを見張りつつ扉越しに姉の消息を尋ね、彼女も少年に探索の手がかりを教える。2人のわずな心の触れ合いに、泥沼のような抗争の中にも、憎悪の連鎖が生み出す悲劇を描いた映画『灼熱の魂』の結末のような一縷の希望を見ることができる
テフロン加工の銃弾は何を意味するのか
今回ゴルゴはテフロン加工の銃弾を用意しているが、フライパン加工にも使われるテフロンは滑りを良くする素材で、別の依頼を予測していたような周到さには驚嘆する。そして捕虜交換は、双方が至近距離で手出しのできない橋の上と決まっている。
映画など、あらゆる映像において、この捕虜交換の場面は、最も緊迫する見せ場である。今回もラストは当然このシーンだが、容赦なき怒濤の銃撃戦を背に、去りゆくゴルゴからは「恨みや憎しみから派生する策など、所詮愚かで不毛な結末を招くだけだ」というつぶやきが聞こえてくるような気がする。

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野原 圭

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