この記事の目次
簡単なあらすじ
第38巻収録。親の仇討ちで江戸にでてきた正蔵は、ついに仇・森藤十郎を発見する。死を覚悟していた正蔵は、仇討ちの前夜に初めて茶屋で遊ぶ。茶屋の女・お玉に、「仇討ちで死ぬつもりであるから、金は残らず使う」と告げると、お玉は「助太刀するから任せろ」と自信たっぷりに言うのであった……。
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仇討ちシリーズの傑作
時代劇において、殺された親の仇を討つストーリーは定番とも言えるだろう。鬼平犯科帳シリーズでも『おしま金三郎』『一本眉』などに代表されるように、とても全てを挙げる事が出来ないくらいに仇討ちを主題に置いた作品は多いのだ。
それほどまでに多く取り上げられる題材なのだが、本作はそれらの中でも際立って光っている作品だと感じる。仇討ちのために長い時間を仇の探索に費やし、やっとの思いで仇を見つけた正蔵だったが、己の命を賭しての仇討ちが迫るとなれば恐怖や不安に襲われるのは当然の話だろう。
その時にお玉と出会った縁からストーリーが展開するといった形だ。正蔵の苦悩に対し親身に接するお玉、仇討ちの身支度までも親身に整えるお玉の心意気には感服だ。不安に満たされた正蔵の仇討ち、お玉の手助けにより本懐を無事に遂げる事が出来るのか、展開が気になる作品だぞ。
出刃打お玉
出刃包丁を手裏剣の如く投げて、寸での所で体には刺さらない。観客はドキドキヒヤヒヤ。出刃包丁を投げられた人は無事に生還、というパフォーマンスが出刃打であると作中にて解説がある。お玉は元々この芸を以てして身を立てていたという背景があるようだ。この出刃打の特技が仇討ちの場で炸裂し、仇の目を出刃包丁で貫く事で本懐を達する事となった訳だな。
芸は身を助くとはよく言ったものだが、正蔵の仇討ちといった他人の身を助ける事にも繋がろうとは、やはり芸事は大事だと思ったぞ。さて、なぜそれほどの芸を持っているお玉が茶屋で体を売っているのだろうか。本作では一切触れられていないのだが、少しだけ原作から掻い摘んでみようと思う。
歌舞伎の演目、出刃打お玉
池波正太郎の原作として鬼平犯科帳の作品として取り上げられた本作“出刃打お玉”だが、歌舞伎の演目としても採用されているのだ。演目名は同名で、出刃打お玉。鬼平犯科帳では仇討ち部分がストーリーとなっている事に対して、歌舞伎ではお玉の背景や仇討ちの後日譚まで網羅されているぞ。そこから少しだけ話をするが、大きなネタバレを含むので気を付けて頂きたい。
出刃打芸人のお玉には俗にいうヒモ男が付いていて、その男の借金返済のために身を売る事となった。そこで出会ったのが正蔵なのだが、仇の目を出刃包丁で貫き正蔵の仇討ちを助太刀した件は隠して、正蔵一人で本懐を遂げた事にするのだ。28年の時を経て、年老いたお玉は茶屋の下女として働き続けていたのだが、そこに現れたのが出世をした正蔵だ。
ただのエロ親父となっていて若い娘を買う正蔵。酒を飲みながらの自慢話は仇討ちの話ばかりだろう。お玉が声を掛けるも、恩義を忘れたであろう正蔵はお玉を知らぬ素振りなのだ。怒り心頭のお玉は待ち伏せをして出刃包丁を投げるのだが、この出刃包丁は正蔵の目を貫く。終幕へはもう少しだけ話が続くのだが、鬼平犯科帳の出刃打お玉に感動を覚えた人ならば、歌舞伎を楽しむ事も出来るかもしれないな。
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滝田 莞爾
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