この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第211巻収録。マレー半島。超人的な聴力の操縦士がレーダー役を務める難攻不落の海賊基地。オーストラリア海軍は基地に気付かれず接近できる新型潜水艦の入手を検討するが、これを警戒する中国が妨害工作を企てて……。
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最新兵器といえど作るのも使うのも人間
最新鋭の潜水艦を用いた海賊との攻防と、その潜水艦の売り込みを懸けた情報戦が両軸となって展開される本話。制振ゴムの技術面の話では、昔ながらの工場を舞台に、熟練職人の矜持や人材不足の悩みが描かれ、さながら『下町ロケット』を思わせる読み応えがある。
一方、海賊グループを乗っ取ったバルチャーの対潜戦闘スキルも、人並み外れた聴力によるところが大きく、総じて「最新兵器といえども作るのも使うのも人間である」というテーマが込められているように思える。勿論、その最高峰を行くのは、魚雷をも撃ち落とすゴルゴの狙撃術なのだが。
採用争いの先の未来をも予見していた本話
本話に登場する日本の潜水艦「竜神型」とは、現実には豪州向けの「そうりゅう型」ということで「ごうりゅう」プロジェクトと呼ばれ、仏・独と採用を争う展開となったのも概ね作中の通り。結果として、技術の高さや両国首相の親密さにあぐらをかいていた日本は、みすみすフランスに出し抜かれる形となる(※)。
しかし、本話から3年後の2021年、オーストラリアはフランスとの共同開発も反故にし、英・米の支援による自国製造に方針転換。その伏線というべき豪国内の労働者の反発も描いていた本作の先見の明は、やはり驚異的と言うほかない。
※出典:ロイター『焦点:日本敗れ潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の裏側』(2016年4月28日)
撤退のままではGの矜持が許さなかった?
依頼人の嘘や隠し事は許さないのがゴルゴの掟だが、本話では依頼時の情報不足ゆえに撤退に追い込まれながらも、お咎めなしとするばかりか再度の依頼をも受任している。「一度引き受けた仕事を遂行させたいだけ」という言葉はゴルゴの真意なのだろう。
余談だが、中国情報部の泳光剣の部下の女スパイは、自らの肉体を使って情報を入手していたが、泳自身とそうした関係にあるのかは読者に不明のまま、「実の父親だと思っている」と意味深な発言をしている。こうしたケースで二人の関係性が深掘りされず終わるのは珍しく、興味は尽きないところである。
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東郷 嘉博
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