この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第162巻収録。精密機械メーカーの社長・溝口は、病床に伏す父親から、昭和14年に勃発した「ノモンハン事件」に関する戦友の捜索と、“ある遺品”の回収を依頼される。その遺品が回収されることで、自らの過去が暴かれることを危惧した東西鉄道の坂東は、溝口を始末するため刺客を送り込む。脚本:横溝邦彦
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蹄の音を響かせ鞍馬天狗のごとく現れたG
昔の戦争を語るときは現代との接点がなければ説得力を欠く。シリーズでもしばしば日本の戦争体験を取り上げているが、多角的な視点から常に現代との密接な繋がりを描いているため飽きられることはない。今回のテーマ「ノモンハン事件」も背後に錯綜する思惑に引き込まれ結末は心に深く響く。
ゴルゴと敵対勢力の戦闘シーンも圧巻だ。装甲車に囲まれ絶体絶命の来栖と浩樹。そこへ白馬の王子様、ではなく駿馬を駆ったゴルゴが颯爽と登場し、モンゴルの大平原を駆け巡り装甲車2台を翻弄する。藤見の嫌な予感はやはり大当たりになってしまった。

生死を共にした戦友の絆は家族同様
再会の場面で堅く抱き合う大隅と来栖。日本で男が抱き合うのは戦友くらいだろう。生死を共にした者達には言葉に尽くせない絆が生まれる。舞踏家・麿赤児は極貧だった頃新聞販売店で自転車を盗もうとして見つかってしまった。
店主はまじまじと麿氏をみつめ「どこかで会ったことがある」と言い、名前を尋ねた。麿氏が本名「大森」を名乗ったところ、相手は突然直立不動の敬礼をした。麿氏の亡父は将校で、店主は部下だった。麿氏は父上に生き写しだったのだ。店主は警察を追い返し、亡くなるまで麿氏と必ず年に一度は食事を共にしたという。
語り継がれる大切な記憶遺産
これは父・溝口の事業を継承した二代目・浩樹の成長物語でもある。当初は遺産相続の条件のため不承不承、来栖に同行し、事あるごとに老人の感傷を軽蔑し不満を抱く。しかし真相が明らかになるにつれ、事の重大さを理解し、最後に自分の存在は、数多にわたる先人の尊い犠牲の上にあることを悟る。
軍上層部の謀議は『歴史の底に眠れ』同様陽の目を見ることはなくなったが、その事実は浩樹の心に刻まれ、記憶遺産として次世代へと語り継がれるだろう。成長した息子と戦地の人々の家族への思いが詰まった記録が溝口にとって何よりの土産である。

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野原 圭

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