この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。香具師・花川戸の助五郎の右腕・長次郎が殺された。証拠品から容疑者は、平蔵とも親交があった香具師・嘉右衛門と判明する。取調べのなか、黙秘をつづける嘉右衛門。平蔵は嘉右衛門が、誰かを庇っているのではないかと推測する。
スポンサーリンク
親心
香具師の元締めと聞くと、あまり良いイメージが無い肩書だ。やはり真っ当な職業としては認識されておらず、どちらかといえば悪役として描かれる事も多いと思う。本作の元締め、嘉右衛門は人として優れた人物である事が描かれており、人情に厚く手下を育てる事に注力した素晴らしい人物となっているのだ。
その嘉右衛門が義理の息子としての認識で接して来た助五郎ではあるが、間違った事は間違っていると教育する嘉右衛門に対しての反発もあるようだ。息子として大事に扱う嘉右衛門の義侠心と、野望に満ちた助五郎の策略が織りなすストーリーとなっているぞ。いかに真っ当な道を進む事が大切なのかを知る、良い機会になるかもしれないな。
無外流の老剣客
忠吾が鐘ヶ淵の大先生に甘酒を届けたというエピソードが登場する。嘉右衛門の評価を読者に説く際に、大先生が評価しているなら安心である、と印象付ける意味もあったのだろう。
池波正太郎ファンからすると、鐘ヶ淵の大先生と言われた時点で同作者原作の“剣客商売”に登場する秋山小兵衛である事が分かるのだ。となれば大先生と仲睦まじい奥方は孫ほど年齢の離れた、おはるという事になる。
鬼平犯科帳の劇中にもしばしば優れた剣客としての名前は挙がるのだが、鬼平の初期作品には亡くなった達人として小兵衛の名前が挙がった事もある。しかし本作では存命かつ、奥方も存命との描写だ。少し掘り下げてみよう。
鐘ヶ淵の大先生の正体は?
剣客商売にて秋山小兵衛は93歳、おはるは48歳でこの世を去ったという描写がある。1811年頃に93歳で亡くなった小兵衛から逆算すると、おはるは1807年頃に亡くなった事になるな。長谷川平蔵は1787年~1795年が火盗改メ長官としての任期、同1795年に死去している。
奥方が存命である事を長谷川平蔵も会話に参加している事から、1795年以前が舞台となっているのだろうか。色々と考証に突っ込みどころはあるのだが、本作では鐘ヶ淵の大先生という表現しかされておらず、これが秋山小兵衛とは一言も触れられていない。
つまり鐘ヶ淵の大先生は別の人間を表している可能性も残っているのだ。まぁ、フィクションに突っ込みを入れるのは野暮な話かもしれないな。素直に好きな作品が別作品で取り上げられた、と読者の皆も納得してみるのはいかがだろうか。
やくざな生き方
やくざとは特定の組織に属している犯罪者のイメージがあるかもしれない。しかし元来、やくざというのは生き方を示す言葉に過ぎなかったのだ。語源は花札のおいちょかぶ。手札の合計の下一桁が自らの勝負手で、大きな数字となった方が強いゲームだ。
やくざは数字の893から来た言葉で、8の札と9の札を引いて手札の合計は7。7はそれなりに強い数字で、通常はここから札は引かない。ところが最高の9を目指すが故に、更に一枚手札を引く人もいた訳だ。
8と9から手札を引き、3が出てブタ(下一桁0)で負ける。こんな人間の事を893(やくざ)な生き方と揶揄した訳だな。助五郎も身の程をわきまえて、7の手札で満足しておけばブタにならずに済んだかもしれないな。まさにやくざな生き方を選んでしまったのだろうか。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日