この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第73巻収録。極左翼系組織“ドラゴン・バード”。その首領・モズーコが内戦勃発を目的に南アフリカに潜入している事を突き止めたCIAは、モズーコ以下5名のメンバーの抹殺をゴルゴに依頼する。それは大観衆のスタジアムの中からターゲットを複数割り出すという困難な依頼だった……。脚本:牧戸次郎
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日米関係に影響を与えたハガティー事件
本話で極左翼系組織「竜の鳥(ドラゴン・バード)」の仕業として言及されている「ハガティー事件」とは、安保闘争のただ中であった1960年、羽田空港でアメリカ大統領報道官であるハガティー氏がデモ隊に取り囲まれ、立ち往生してしまった事件。
当時は大いに騒がれ、アイゼンハワー大統領の訪日中止の一因となったことで知られている。最新の出来事をタイムリーに作中に反映することも多い『ゴルゴ』だが、このように、制作時から見ても昔(26年前)の事件をさらっと背景設定として出してくるのも上手い。世界観の深さを感じさせる一節だ。

足元を見て協力を引き出すゴルゴ流交渉術
今回は、数万人の観衆の中から五人の標的を探して狙撃するという難題に挑むゴルゴ。米ソ両国がトップシークレットとしていた特殊薬「NPPD」を使用する計画も流石だが、その実現のために、標的モズーコの主治医であるブラームス博士を脅し、協力を引き出す手際が見事だ。
博士のゴシップと借金を調べ上げた上で、足元を見た交渉術で弱みを突くのだが、博士宅のチェアに深々と腰掛けているゴルゴの描写が少し可笑しい。今回は総じて狙撃準備に重点が置かれたエピソードで、短いページ数の中でゴルゴの多彩な「凄さ」が味わえる名短編である。
ゴルゴの情報力にCIA長官も脱帽
本話のキーアイテムとなる特殊物質「NPPD(ニトロフェニルペンタジェン)」とは、作中ではCIAやKGBがスパイ捜査に用いる蛍光薬と説明されているが、この物質名で検索しても本作関連のページしか出てこない。
「ニトロフェニル」系の物質が蛍光作用を持つのは事実なので、上手く虚実を取り混ぜたフィクションといえるだろうか。ちなみに、『アイスバーグ・カット』『見えない軍隊』に続いて三度目の登場となるCIA長官だが、ゴルゴにNPPDの存在が割れていたことがわかり、「さすがというべきか……」と嘆息する表情が印象的だ。

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東郷 嘉博

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