この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第136巻収録。デューンの遺作「イエスとその弟子たち」のコレクターであるロゼッティは、残る2枚の絵を日本人のバブル成金・伊藤に買い取られてしまう。絵を我が物にしたいロゼッティは、ゴルゴに伊東を亡き者にしてくれるよう依頼。しかし、ゴルゴのほうでも、ある理由から伊東を始末する必要に迫られていた……。
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人の欲が重なり合うエピソード
このエピソード、個人的にはもっとファン諸兄の間で評価されても良いと思っている。確かにゴルゴの神ショットは無い。醜い欲を隠し切れない人間たちが交叉していく様子は決して胸がすくものでも、感動するものでも無い。
1度読んだだけでは話を理解しきれない点も多い。しかし、繰り返し読むと人間の滑稽さ、愚かさが面白くなってくるし、何よりエピソードの底に不思議と爽やかな筋があるように感じられてくる。
ゴルゴらしい狙撃はないものの
ゴルゴは今回中盤で狙撃をするが、特に神がかり的な技量を必要とする案件でも無かった。後半の依頼に至っては『銃撃(シュート)ではなく狙撃(スナイプ)してほしいのです!』と条件を付けられていて、細工こそ繊細なものの銃による爽快な狙撃はない。ただ、このエピソードの見どころは狙撃ではなく、珍しく焦るゴルゴだと思っている。
序盤、自身のショットした瞬間の油絵を目にしたゴルゴは内心とはいえとにかくしゃべる。初期ゴルゴを思わせるほどに内心が書かれる。ゴルゴのピンチが描かれることはたまにあるが、余裕のある焦りと思考は珍しいのではないか。
ところで、このエピソードがもう少し話題になっていれば、このゴルゴの絵画を書いた無名画家が絡むエピソードも続編としてあり得たのでは……と想像してしまう。一瞬見たゴルゴを銃の形が判るほどリアルに描ける画家が関係する事件、面白そうではないか。
このエピソードで救いたかったものとは
ここからは感想というより想像の域になる。勉強不足で、このエピソードの脚本家がどなたなのかは判らないのだが、この脚本はラストで老獪な石油王の隠し玉として用いられる『医師ガシェの想像』を、せめて創作の中で救いたいと書かれたものだったのではないか。『医師~』は実在の絵画で、日本人コレクターが「死んだら棺桶に入れてもらう」と言ったところまでは現実と脚本は同じだ。
このエピソードのラストでは『医師~』はそれとなく本来の持ち主に戻ったことになっている。しかし現実では1997年コレクターの遺族がオークションに掛け、エピソード公開当時の2000年ではオーストリアのコレクターが個人で所有していた。
ゴッホの傑作のひとつと名高いこの絵画を、否、ナチスによって不当に略奪された美術品の一つ一つを、脚本家は本来の所有者の手に渡したかったのではないか。このエピソード全体に横たわる、欲の汚濁の中の不思議な清冽さを思うと的を外しすぎてはいない…と思っている。ちなみに『医師~』はオーストリアのコレクターの手を離れた後、現在は所在不明となってしまっている。
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大科 友美
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