この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。平蔵と旧知の旗本・徳田権十郎が役宅を訪ねてくる。若かりし頃の平蔵と権十郎の交流が、興味深く描かれる一編。後半、平蔵は盗賊団の一人を捕縛するが、その男の持っていた笄(こうがい)は、権十郎の生き別れとなった息子のものだった……。
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平蔵と旧知の知り合い
平蔵が若かりし頃、無頼の限りを尽くしていたエピソードは多数あるのだが、本作は平蔵が結婚をした後のエピソードだ。この年代の平蔵(鐵三郎)を描いた作品はそれほど多くないと思われる。家族を持って初めて知る“家”の大切さを平蔵目線から描いている事が興味深いぞ。
江戸時代に発達した家制度と、家を守るべき武士の心得を見事に表現しているのだ。権十郎と鐵三郎の出会いと、そして心の通じ合う様を描いた本作は非常に良い作品だと思う。若かりし武士の心理描写と、家を守る子への愛情を読み解きたい方にはお勧めだ。
笄(こうがい)
笄と呼ばれてもピンと来ない方も多いかもしれないな。端的に言ってしまえば簪や笄は日本髪に関係する道具になるのだ。元々は髪の毛を纏める為に用いられた道具が笄で、髪の毛に飾る物が簪と区別されていたのだが、時代が下るにつれて同じような使い方になったらしいのだ。
江戸時代の髪型を維持する為にはなかなか苦労があったようで、頭が痒くなった時に使う目的の笄や、先端が耳かきになっている簪なども存在したようだ。一つの道具に別の機能性を持たせるのは今に始まった事ではなかったのだな。
笄でもう一つ。切っても二つに再生するプラナリアという生物がいる。その仲間にコウガイビルと呼ばれる物がいるのだが、頭の部分が横に広がっている様が笄の形状に似ている事から、コウガイビルの名前が付いているのだ。
笄が繋ぐ血の行方
金兵衛が親の形見として持っていた笄は、若い時分に権十郎が恋仲の踊り子に渡した物と同一であると見るべきだろう。間違いなく権十郎の母から伝わる物だったにも関わらず、その所有者が盗賊という身分である為に、全てを見間違えたと涙ながらに訴える権十郎の心中は痛い程に伝ってくるのだ。推測するに金兵衛は権十郎の息子なのだろう。
しかし家を継ぐ血筋の物が盗賊の一味とあらば、連帯責任を問われても仕方のない時代であった。家を守る事は、それほどまでに重い責務があったのだな。家と血を守る時代は終焉を迎えつつあるようにも思えるが、最期に頼れる物は家なのかもしれないな。
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滝田 莞爾
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