この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第51巻収録。連続する放火事件。ついに捕縛した犯人は香具師の元締め・籐七だった。しかし藤七が牢内で殺害されるに至り、平蔵は事件の裏には、もっと巨大な悪が隠れていると考える。捜査線上に”ある藩”の名前があがったとき、平蔵は京極備前守から呼び出しを受けるのだった……。
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材木置き場、木場
江戸時代の建造物はほぼ全てが木材で作られていたのだが、木は燃えやすい性質があるので材木置き場が深川に作られたのが歴史だ。貯蓄しておく木材が火事の影響を受けてしまっては元も子もないからな。現在は地名として残っているのみの木場だが、元々は海を臨んでいた水の豊かな地だったのだ。
江東区木場は地下鉄メトロの駅として地名もそのまま使用されている。貯木場の跡地には木場公園があり、日曜日ともなると多くの家族連れが集まる人気スポットになっているぞ。材木を貯蓄しておく場所なのだが火事の影響を最小限にする為、材木は水に浮かべられていたのだ。
職人たちは水に浮かんだ木の上を自由自在に移動し、木の運搬もお手の物だったそうだ。彼らの仕事に必要な移動技術こそが、現代でも伝統芸能として残っている“木場の角乗”という事になる。その木場を舞台にした本作だが、読み進むに連れて非常に大がかりな問題へと発展していくぞ。
年貢米の代わり
農業を営む農民たちは、収穫した米を年貢として納めていた。しかし山間地域などで米を育成する事が難しい地域の人々はどのように年貢を納めていたのだろうか。実は年貢米の代わりに木材を納める事で、米の代替として認められていたのだ。
年貢米の代わりに納める木材の事を年貢榑木(くれき)と呼んで、その長さによって長榑木、短榑木の定型基準があったようだ。本作でも登場する沼田藩真田領などは江戸近郊でも有数の山間地域で、多くの木材が産出された。現代でも利根沼田産の木材は人気のある木材なのだ。木材の種類としてはスギ、カラマツが有名で、利根沼田のカラマツと言えば有名ブランドにもなっているぞ。
江戸時代の放火
本作は何も知らないであろう悪童が火付けをする事からストーリーが展開して行くのだが、物語はまるで火が燃え広がるかの如く大きな話へと繋がって行くぞ。様々な人物や藩名も登場はするものの、本作が史実に基づいた話という確証は得られていない。
沼田藩は両国橋の架け直し時に木材に関わるトラブルを起こしており、有名な木材産地という点も含めて名前が出たのかもしれないな。余談だが江戸時代の処罰記録によれば、江戸で放火及び放火未遂を行った者は火炙りの刑に処される事が多かったそうだ。
中には遠島で済んだ例もあるようだが、放火犯が若年を理由に所払いで済んだかどうかは定かではない。鬼平犯科帳のエピソードの中でも、非常にスケールの大きい話だ。江戸時代の建築材としての木材を取り巻くストーリーは読みごたえがあるぞ。
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滝田 莞爾
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