この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第39巻収録。久々に蕎麦屋「藪惣」へ立ち寄った平蔵。店にいた客・源次から「萬屋のあくどい商売の正体を暴かないことには鬼平の名が泣く」と啖呵をきられる。萬屋とは、あらゆるものを驚きの安値で売る流行の店だったが、店の主を見たものはなく、盗品を金に変える役割をもった店舗なのではないかとの噂があった……。
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幼馴染との関係
十手を預かる若者の熊之助と片足を不自由にしている源次、幼馴染の二人ではあったが源次は体の事もあってやさぐれた生活を送っているようだな。お互いを気に掛けてはいるものの、どことなくぎこちない関係のようにも見える。
鬼平にすら荒れた態度を取る源次ではあったが、どうやら大安売りで人の集まる萬屋が怪しいと、まるで鬼平に対する当てつけのようだ。機嫌を損ねる事もなく、鬼平は源次の吐いた暴言の裏を取るべく萬屋に探りを入れるのだ。
そこから見える萬屋の陰、そして源次が片足を不自由にした理由なども明らかになるぞ。両国広小路を舞台にした幼馴染の友情物語、ぜひともお勧めの一本に仕上がっているぞ。江戸時代の地名も多く登場するストーリーなので、江戸の地理が好きな人にもお勧め出来るな。
西両国と東両国
熊之助が冒頭でスリを捕まえた所が萬屋のある場所、つまり両国広小路だ。さて、江戸時代から続く地名の両国だが、実は現在の両国とは範囲が異なるのだ。両国国技館などで有名な現在の両国は墨田区にあって、江戸時代には隅田川の向こうという意味で向両国と呼ばれていたぞ。
もともと両国の地名は、西側が武蔵国、東側が下総国、二つの国に跨る土地という意味で両国と名付けられた。両国橋の西側は現在の中央区東日本橋、東側は墨田区両国として残っている訳だ。鬼平犯科帳にもたびたび両国の地名が出てくるのだが、向両国や東両国という表現は記憶にないのだ。
回向院という名称や相撲に関するストーリーならば向両国、本作のように薬研堀や両国広小路という名称があった場合には西両国を指す事になるぞ。東京に在住の方でも、多くの方は分からないと思われる江戸の地理だ。これを機に両国の由来を覚えてみて欲しい。
薬研堀
源次が埋め立てに反対した川が薬研堀だった。両国の延焼を防ぐ為に必要だったとはいえ、漁民にとっては死活問題だったと思うのだ。この薬研堀の名、川底がV字に切れ込んでいるところから“薬研堀”の名前が付いたとされるのだ。薬研とは臼の一種で、草木や動物などを薬として作成する際に使う道具だ。
粉状に擦りつぶしたり、汁を抽出するなど多目的に使われたぞ。形は刺身などを乗せる舟型の上に取っ手付きの一輪車がセットになっているとイメージすると分かり易いだろうか。腹筋ローラーを使用している方には、一輪車よりもイメージが付きやすいかもしれないな。
薬研堀は七味唐辛子が初めて作られた場所としても有名だな。現在はもう地名としても残ってはいないが、JRの東日本橋から両国橋に向かった辺りが薬研堀と呼ばれていた土地になるぞ。薬研堀と両国広小路を舞台にした幼馴染の友情物語、複雑な時代背景を描き切った鬼平ワールドならではの作品と言えるだろう。
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滝田 莞爾
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