この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第17巻収録。長谷川平蔵死す!七千石の大身旗本・渡辺丹波守をめぐる闇を暴かんとする平蔵に、巨悪の魔の手が迫る!二十年前に失踪した旗本・永井弥一郎と、秘密結社・鬼火党結成の秘密とは?シリーズ屈指のミステリー長編!
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闇に潜む強大な悪
武家社会に根付いた家の在り方、そして武家を取り巻く環境と背後に潜む巨悪を暴く、鬼平犯科帳においても圧倒的なスケールで描かれた大作だ。火盗改メにとってはどれほどの大盗賊であろうとも、取締りの対象として扱うのは当然だ。しかし犯罪に身分の高い武家が絡んでくるとなると、いかに鬼平が旗本であろうとも簡単には手が出せなくなってしまう事も葛藤するところだろう。
犯罪に対して背景の規模が大きすぎるが故に、全貌すら全く想像が付かないスケールとなって本作は繰り広げられていくのだ。武家の跡取りに絡む事件、大規模な盗賊の跋扈、鬼平暗殺を目論む悪者、非常に多くの要素が詰まったストーリーは見逃せないぞ。
武士の身分と石高
本作は数多くの旗本や大名が登場するが、武士の階級や身分について知っておくと更に楽しめるストーリーかもしれないな。鬼平犯科帳にて良く目にする表記に長谷川家400石といった物がある。鬼平は他の者から“長谷川の殿様”と呼ばれているのだが、この殿様という呼び方は旗本の身分以上の者に対する物なのだ。
旗本は御目見得(おめみえ)といって、儀式などで将軍と同席出来る身分から上の者を指す呼び方だ。10000石を超えた場合には大名になるので、旗本の石高は10000石未満となる。戦場では軍旗を守る側近になる訳で、つまりは身分が高いという事だ。
江戸初期の記録で旗本は約5300人いたそうで、5000石以上の旗本は約100人、3000石以上が約300人、残りの多くは500石以下だったそうな。本作に登場する武家を石高で比較すると、長谷川家400石、永井家600石、清水家600石、渡辺丹波守7000石、京極備前守11400石、と鬼平は随分と低く見えてしまうが、実は石高を持っている時点で、もの凄く高い身分なのだ。
鬼平死す
原作では非常に高い人気を誇った密偵の伊三次の名前が出た事も印象的だ。伊三次と半ば恋仲だったおよねが、本作の重要な登場人物として挙げられるだろう。およねと伊三次にまつわるストーリーは「猫じゃらしの女」にて読む事が出来るぞ。
最終的に兇賊、強矢(すねや)の伊佐蔵に刺殺されてしまう伊三次ではあるが、腰に鈴を着けるといえば伊三次を思い浮かべる人も多いだろうか。さて、事件の全貌が全く見えない中、鬼平は敢えて討ち死にをする芝居を打った訳だが、録さんと鬼平との掛け合いはいつにも増して微笑ましい。
序盤の謎に満ちた全容が矢継ぎ早に解明されていく様は、スピード感に溢れていて非常にテンポ良く読み進められるだろう。非常に多くの要素が詰まっている大作なので、少し難しく感じる方がいるかもしれない。それでも江戸時代の武家社会を描いた作品としては傑作と言っても過言ではないと思うのだ。興味を持ってくれた方にはぜひお勧めしたい作品だぞ。
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滝田 莞爾

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