この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第37巻収録。犯行後には折り紙の鶴を残していく盗賊、鶴千代の源内。わざと将軍家ゆかりの場所や、火盗改方の役宅付近を狙い平蔵を挑発する。捜査の手がかりは、行商人が目撃したという若い紙屑拾い。平蔵をはじめ、レギュラーメンバー総出の執念の尾行でついに……!
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密偵総動員の大捜索
神田明神の料理屋で起こった凄惨な鬼畜働きを捜査する火盗改メの面々ではあったが、手掛かりも少なく捜査は難航していた。それでも鬼平は“天網恢恢疎にして漏らさず”の言葉の通り必ずや悪党を捕まえる決意をし、細い糸を辿るように地道に捜査を続けていくのだった。
取替平からの情報を頼りに火盗改メは謎の紙屑拾いに行きつくのだが、紙屑拾いに化けさせるとなれば適役は彦十だろう。彦十は見事な変装と潜入により解決への糸口を切り開くのだが、密偵たちも総動員の大がかりな探索が開始されるのだ。
天が悪人を捕えるために張りめぐらせた網の目は粗いが、悪いことを犯した人は一人も漏らさず取り逃さない。
この一心を以てして凶賊を一網打尽にする事が出来るのか、火盗改メ総動員、鬼平ファンには堪らない捜査物語だ。
凶賊の狙い目を考察する
神田明神で鬼畜働きを行った凶賊の次の狙い目として、鬼平は本郷、小石川、駒込あたりに目星を立てたとある。鬼平曰く、火盗改メを嘲笑う凶賊は役宅の近くで犯行を重ねているようだ。さて火盗改メの役宅は清水門外の近辺、現在の九段下駅近辺にあったとされるのだが、それらの土地の地理的な配置から考えてみよう。
配置的に言うと、九段下から北上して、小石川、本郷、駒込の順に並んでいると想像してほしい。九段下から小石川、これは歩いても十分に網羅出来る範囲だと思うのだ。しかし小石川から本郷に向かうとなると、現在の後楽園あたりを通って北上する事になるのだが、非常に範囲が広くなってしまう。
更に本郷から駒込を網羅する場合には、現在の東京大学周辺を通りつつ北上するだろうか。江戸市中を表す地図と照らし合わせると、鬼平の目星は江戸の三分の一くらいを占める範囲になると推測できるぞ。もちろん無鉄砲に江戸市中を巡回するよりもずっと効率的だと思うが、それだけ火盗改メの捜査は大変だと感心した。まさに火盗改メの執念が見えたのではないだろうか。
江戸時代のリサイクル
姿の全く見えない凶賊のヒントは取替平から入手した情報からだ。取替平については作中に解説があるので省略するとして、本作には紙屑拾いという職業も登場している。江戸時代には物凄く高度なリサイクルの環境が整っていたそうだ。紙屑拾いが集めた紙は買い集められた後に、紙を溶解して再生していたと言う。
当時は紙が非常に貴重な物だったという証にもなるだろうか。取替平と紙屑拾い、江戸時代のリサイクルを担っていた職業から捜査が進展していくとは、なかなか興味深いストーリーの展開方法だと思うのだ。現代では既に馴染みの薄い職業ではあるが、江戸時代の生活背景と馴染んでいる鬼平犯科帳。これだから鬼平の世界は堪らないのだ。
さて、火盗改メ執念の捜査は凶賊たちに辿り着くのだろうか。そして凶賊の犯行に至る経緯とは一体……。まさに大捜査ともいえる本作は、密偵たちの活躍を期待する鬼平ファンにもお勧めの一作だ。
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滝田 莞爾
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