この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第12巻に収録。平蔵が弟のように可愛がっていた滝口丈助が、平蔵の目の前で騙まし討ちに遭い果てた。相手は将軍家御側衆の子息。平蔵は正統な裁きを公儀に直訴するも相手にされない。平蔵は左馬と佐嶋の助けを借り極秘裏に仇討ちを決行する。
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平蔵の弟分、仗助
火盗改メの同心が次々と命を落とす事件が重なり、平蔵も心身ともに疲労困憊の色が見える。鬱屈とした気分を晴らすべく、左馬之助と外出をした先で滝口仗助の姿を見た平蔵と左馬之助だった。滝口仗助は平蔵と左馬之助が修行をしていた高杉道場の同門で、まさに二人にとって弟ともいえるほどに可愛がった相手なのだ。
ただならぬ仗助の雰囲気を察した二人は仗助の身を案ずるも、決闘の名を称した騙し討ちともいえる卑劣な手によって仗助は命を落としてしまうのだ。その場に居合わせた平蔵の怒りと悲しみは、想像を絶する物であっただろう。相手は七千石を拝する大身旗本の息子、公儀に訴え出るも処断を望む事すら出来ない事を知る平蔵だった。このままでは仗助が浮かばれない。覚悟を決めて平蔵が取った行動とは一体……。
危絵(あぶな絵)
仗助が平蔵と酒を酌み交わす場面にて、大酒によって父親が作った借金を返済するべく、仗助の兄が危絵を書いた、とある。危絵は春画とは異なって、男女の交わりなどを描いた物ではないのだ。
衣服に覆われた中から肌が見える物や、大胆に肌を強調した物、動きの中で少しだけ見える下着を描いた物など、直接的なエロティシズムの表現とは若干異なるぞ。1722年に春画が禁止され、その代替として発生した物とも言われる。
しかし禁止からピークを迎えるまでに30年近く経過している事、禁止の前から危絵のルーツが見られる事から、どのような発生をしたのかは定かではないようだ。隠された中からチラリと覗くエロスの要素に嗜好を見出す世界。昭和の時代に“チラリズム”という単語が流行語になったが、江戸時代には既にチラリズムが確立していたと考えると非常に興味深いな。
人呼んで、鬼の平蔵
京極備前守への直訴も叶わぬと悟った平蔵だが、心に鬼を持つ男としてまさに奮い立つ。言質を与えぬ京極備前守もまた、心に鬼を持っている一人なのかもしれないな。旗本ともあろう者が、私怨とも言われかねない復讐劇を画策するには相当の覚悟が必要だ。決して表沙汰には出来ない“鬼平”の裁きが下される。
大身旗本の道楽息子に下された鬼平の裁き、ぜひ本作で顛末を読んで頂きたい。太平の世に秩序を守るべく活躍する、鬼平と京極備前守。カタルシスと共に、二人のダークサイドを映し出した傑作だ。鬼平犯科帳ファンならば必ずや抑えておきたい作品ではないだろうか。
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秋山 輝

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