この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第51巻収録。ブリュッセルの石橋が陸軍のパレード中に崩落。多数の死傷者を出した。事故原因は物理学でいうところの「共鳴」によるもので事件性はないと判断された。しかし遺体の中に一体だけ銃弾による頭部貫通が原因で死亡したものが含まれていたため、市警は特捜班を組織する。ゴルゴが登場するのはラストの一コマだけという異色作。
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狙撃コースを作り出すトリックに脱帽
ゴルゴによる事件の捜査に当たった刑事が、狙撃の方法に思い至り「そんな芸当が出来るはずが……」と戦慄するのは『ゴルゴ13』の定番パターンだが、本話のそれは一際群を抜いている。
なんとゴルゴは、狙撃ポイントとターゲットの間に位置するマンションの部屋の扉を、花屋を使って開けさせ、即席で狙撃コースを作ったのである。
本話の脚本は、ミステリ作品も多く手掛けた直木賞作家の船戸与一氏(本作では外浦吾郎名義)。ケレン味重視のトリックの前には、「その時間に住人が不在だったらどうしたのだろう?」といった心配は野暮なものだろう。
警部の達観した諦め方が印象深いラスト
ゴルゴがほとんど姿を見せないエピソードは珍しくないが、本話はその極致であり、なんとラストのコマに写真で登場するのみである。
狂言回し役のド・ヌーブ警部が事件の真相に辿り着いた時には、既にゴルゴはベルギーから出国しており、警部は「いやでも納得させられたよ……」の一言で検挙を諦めてしまった。
こうした「刑事が驚愕」パターンでは、刑事がゴルゴ検挙に燃えるものの、証拠が上げられず取り逃がしてしまい悔しがるという終わり方が一種の様式美となっているが、ド・ヌーブ警部の達観した諦め方はそれはそれで味があって印象深い。
現代技術とも無縁ではない共振現象
共振現象(※)による橋の崩落といえば、アメリカで1940年に発生したタコマ橋の事例が有名だが、これを共振によるものとするのは誤解との指摘もある。むしろ、本話の事例に近いのは、1831年に軍隊の行進で崩落したイギリスのアーウェル川の橋の方だろう。
それ以降、イギリス軍では「橋の上では足並みを揃えた行進は禁止」という教訓が出来たそうだが、本話のベルギー陸軍はそれを知らなかったのだろうか。なお、本話から20年を経た2000年にも、ロンドンで開通直後のミレニアム橋が共振のため一時閉鎖されるという事態が発生している。
※本話中では「共鳴」と書かれているが、共振と共鳴はともに英語 resonance の訳語であり、同じ意味である。物理学では共鳴、工学分野では共振の語が一般的に用いられる。
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東郷 嘉博
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