簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。平蔵と小柳は見廻りの最中、訴状を手に川へ身投げしようとした女中・お伝を救う。落ち着いたお伝から話を聞くと、二年前に起こった”壺屋事件”は冤罪だったという。調べると二年前の奉行所の調べでは不可解な点がいくつかあった……。
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他人を妬む心
中途採用で入って来た新人が物凄く遣り手で、圧倒的な成績を上げて信用を獲得してしまう。それが刺激になって更なるシナジー効果を生めば会社が大きく成長するのだが、元より地道に頑張っていた社員としては面白くないだろうな。
しかし人間とは楽な方向へと流され易いもので、出来る人間に嫉妬をして足を引っ張る事が多いのだ。醜い嫉妬心が巻き起こす事件が本作のストーリーの主軸となっているぞ。
なぜ人は自らを昇華させる事よりも、相対的に他人を下げようとするのか。いささか心苦しい作品ではあるが、そうした人間の薄汚い一面を克明に描写している作品とも言える。心理描写に興味のある方には良い作品だろう。
壺屋の最中
菓子屋として登場する本作の壺屋だが、甘いもの好きの方にとってはピンと来る名称だ。江戸時代から続く老舗の和菓子の名店に“壺屋”という屋号があるのだ。壺屋の名前を冠した和菓子屋は日本全国に多くあると言われている。
しかし江戸市中で壺屋といえば、現在でも文京区本郷にある壺屋に繋がる事は容易に推測できるぞ。本作の壺屋も、おおよそ本郷の壺屋をモチーフにした店名であろう。
さてこの壺屋、かの勝海舟と関わりのある店なのだが、その名物はと来れば間違いなく最中だ。たかが最中、されど最中。壺屋の最中に使われる餡は、確実に江戸時代に親しまれていた餡と分かるのだ。甘いあんこの雑味が無い。あんこなのに甘すぎない。すぅーっと溶けるように口に広がる芳醇な甘み。
江戸の味を伝える老舗も後継者不足から減ってしまっているのだが、この壺屋は現存する稀有な店の一つと言って良いだろうな。本郷三丁目から湯島天神方面へ進む通り沿いにある名店、壺屋だ。手土産にも喜ばれること請け合いだ。
放火犯は火罪
思い余ったお伝は壺屋に火を放ち、炎上した壺屋は廃業を余儀なくされるといった形で決着をする訳だが、一つ疑問が残るぞ。この時代の火付け、つまり放火は重罪であって、例えそれがボヤ騒ぎで終わったとしても火焙りの刑は免れなかったという記録があるのだ。
かの有名なお七も色恋沙汰から火を放った後に火焙りの刑を受けている。お七の放った火はすぐに消し止められたようだが、それでも火焙りの刑だった。
そこから考えると、お伝は壺屋を完全に焼失させているので、さすがに微罪で済むとは思えないのだ。まぁ、ストーリーとして成り立たせる為にはこういった事もあるとは思う。もしかしたら微罪で済むケースもあったかもしれないものな。
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滝田 莞爾

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