この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第50巻収録。笹やの女将・お熊のところに、行き倒れの浪人・矢内征四郎が転がり込んできた。さっぱりとした性格で、平蔵や辰蔵とも親交を結ぶ。一方、辰蔵が通う坪井道場に、星野直介という剣客が訪れる。じつは矢内と星野には”ある因縁”があり、辰蔵を介して顔を合わせることになる……。
剣術のつながり
梅雨の長雨にお熊の茶屋へと現れたみすぼらしい男と、食客として坪井道場に滞留している男。この二人の剣客を軸に展開されていくストーリーだ。剣客が登場するとなれば、やはり辰蔵がメインに据えられている。
以前は剣術もパッとせず女性にだらしないキャラクターではあったが、成長した今となっては剣術の腕前も上がり、時として師範から稽古を任せられるほどの腕前になっている。その辰蔵が何も出来ずに鮮やかな一本を取られている事から、この星野という剣客は相当の腕前である事が分かるぞ。
坪井主水が師匠の上杉馬四郎の下で、星野の師匠と共に修行をしたとある。つまりこの星野という男は念流の免許皆伝という事になる。ならば辰蔵が手も足も出なかった事にも納得は行くな。さて、雨宿り男と星野、二人には何やら尋常ならざる関係がありそうだが。
江戸時代の仇討ち
直接の尊属を殺害した者を仇とみなし、その者に復讐をする事が仇討ちだ。尊属とはあるが父母に留まらず、主君(藩主など)を殺害した者に対する復讐も仇討ちに含まれる。ここで言う仇討ちは父母を殺害した者への復讐に限定するが、一般的な物語として伝えられる事もある。
多くの場合、殺害した者は出奔して逃げ回るという設定だろうか。その仇を追って息子や娘が遂に発見、見事に本懐を成す。時代劇では良く見るストーリーなのだが、実は仇討ちの成功率は物凄く低かったらしいのだ。
成功率で言えば数%、まぁほとんどが失敗に終わっていると見るべきだろう。逃げた仇を見つけられなかったケースや、仇討ちで返り討ちに合ってしまうケースなど、仇討ちもなかなか大変だったようだ。
藩士としての雨宿り男
矢内(雨宿り男)と星野は期せずして、辰蔵との出会いから仇討ちの立ち合いをする事となる。しかしストーリーを読み進めると、どうにもこのエピソードには悪者がいないのだ。あえて挙げるとするならば公金横領をした星野の父という事になるのだが、どうにも腑に落ちない点もある。
星野の父が横領の末に悪事の共謀を断った人に切りつけるとは、これは大罪であり説明も簡単に付けられるはずだ。にも関わらず矢内が仇として出奔したのは何故であろうか。推測するに星野の横領が公に出れば、その息子や家族にも累が及び、場合によっては家の取り潰しにも至る。
矢内の心の内には、自らを犠牲にする事で藩内の不正を無かった事に出来るという考えがあったのではなかろうか。つまり矢内は実に忠誠心の高い男であったと思えるのだ。現代に生きる我々には理解が難しい感情かもしれないが、どことなく心の美しさに惹かれてしまうものである。
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滝田 莞爾

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