この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第50巻収録。喜一と加助は、二十年前、ともに丁稚奉公で苦労した仲。現在は心ならずも盗賊団の一員として生きている。頭の丑蔵は次の押し込み計画を練っていたが、喜一に本気で惚れている女がいることを知った加助は、ある行動に出るのだった……。
盗賊の素性
綿密な計画を練って、しっかりと準備をする事が重要であると喜一は言う。それに対して怖気づいたと吹聴する加助。盗賊仲間同士の仲違いと見受けられるこのやり取りだが、どうやら喜一と加助はただの盗賊仲間では無さそうだ。
二人の出会いと伊勢神宮参拝の抜け参りについては本編に詳しくあるので読んで頂きたい。なぜに苦楽を共にし、人生の道すがらを共にした二人がこの様に仲違いをしてしまったのだろうか。そこには商家奉公の苦しい背景と、盗賊頭との不運な出会いがあった。
江戸時代の商家奉公
貧しい家庭に生まれた子供も多かった時代で、男児の場合には10歳前後で奉公人として商家に預けられる事も多かったようだ。俗に丁稚(小僧)奉公と呼ばれるのがこの雇用の事なのだが、商家の雑用や力仕事を任されていた。
昼間は店の手伝いをして、夜は手習い(そろばんや習字など)を学んでいたと言うから、相当忙しかったのだろう。休みは月に1-2度しかなく、年の休みも限られていたと言う。更に丁稚は給料が無かったのだ。朝から晩まで店の業務をこなし賃金が発生しないとなると、なかなか熾烈な労働環境かもしれない。
それでも衣食住付き、習い事もさせて貰える事から江戸時代では子供を奉公人に出したい親が多かったようだ。人気の丁稚奉公ではあったが、昇進をして手代、更に番頭まで出世できるのは限られた人数なので、江戸時代の出世競争も大変なのだな。
盗賊の足抜け
仲違いをして喜一を裏切り者扱いしてきた加助の本心は、物語を読み進めていくとはっきりと分かってくるぞ。しかし盗賊から足抜けをする為には、そこまでの労力が必要だったのだろうか。
いや、むしろ加助は自らを犠牲にしてまでも喜一を助けたかったのかもしれない。喜一は加助に対しての心咎めを持ち、加助は喜一に心咎めを持っていたのだろう。お互いがお互いを尊敬し、尊重していたからこその足抜け劇となったと考えるのが妥当かもしれない。
それほどまでに盗賊を足抜けする事は難しいという事か。しかし刎頚之友と言える間柄の二人の心情は実に美しいではないか。少し寂しいけれども、どこか心が温かくなるストーリーに出会いたければ、本作を読んでみる事をお勧めするぞ。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日