この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第203巻収録。介護施設でユダヤ人男性・ガンスが射殺された。調査にあたったLFVは、ガンスの正体がナチスの残党であり、ナチスが蓄えた隠し財産の管理人だったことを知る。その財産とはヒトラー自らが立案した計画によって、ヒトラーの後継者へと受け継がれる軍資金だった……。脚本:江戸川啓視
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未来永劫、永遠に続くべき戦後
第2次世界大戦時の隠し財産探しの末仲間割れする、という少しお気楽な話かと思ったが、ドイツ、ナチス、イスラエル、共産主義、イスラム過激派が、それぞれの思惑で複雑に絡まり合う実に重厚で深い話であった。
今回は毎度お得意様のイスラエル諜報機関モサドから2件、ドイツ諜報機関のボームからと3件の狙撃をドイツで実行する。ドイツにとって謝罪をともなう「戦後」は継続しなければならない義務である。多くのドイツ人が重ねてきた努力を踏みにじる第三帝国実現の野望を、ゴルゴの相棒・アーマライトM-16が三度にわたって打ち砕く。
ロンメル将軍の名はカムフラージュ
日本でもM資金とか徳川の財宝など詐欺事件も含め、幽霊話のように話題になることがあるが「財宝」という言葉は人を惑わす魔法のようである。ロンメル将軍は第2次大戦時、ドイツ軍の快進撃を指揮した名将として知られるが、生粋の軍人であった彼が財産を漁っていたのではない。
特殊機関であるヒトラーの手下共が、行きがけの駄賃よろしくユダヤ人から収奪を繰り返して蓄財した汚い財宝を、ロンメル将軍の名前を借りて小ぎれいにみせただけのことである。汚れたあぶく銭を後生大事に抱えていたアドラーは「実直」である相手を間違えている。
裏か表か表が裏か、心の内は誰が知る
ボームとインゲ、互いに言えない秘密を抱えて生活しなければならなかった夫婦の悲劇が衝撃的である。一度は妻の愛を疑い、利用されていると勘違いしたボーム。彼が真実を知ったときのショックを思うと言葉もない。
インゲに謝罪できる日を心から待ち望んでいたが、ついにかなわなず、さらなる悲劇に見舞われる。誰が黒で誰が白なのか、最後までわからない、まるで盤面が一瞬でひっくり返るオセロゲームを見ているようだった。ゲームには終わりがあるが、現実は終わらない。ドイツの遙か東方の寒い国からも、不気味な足音が聞こえてきている。
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野原 圭
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