この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第145巻収録。世界の難民孤児をエリートとして育成し、各界に送り出している「インター・チルドレン財団」。しかし、この財団には悪魔のような一面が隠されていた。それはエリート教育から脱落した者たちを、臓器売買のドナーとして確保している事実だった……。脚本:加久時丸
スポンサーリンク
ゴルゴ、修道院に現る
修道院の下僕風という珍しいスタイルでのゴルゴの登場により物語は始まる。「ゴルゴ13」という名前の由来がキリスト教と深い関連があるといわれているが、神のしもべであるシスターを前に「宗教というのは便利なものだな」という皮肉をいうあたり、この男ほど宗教と縁遠い人物もいないだろう。
しかしシスター・エレナの「祈っているだけで世界が平和になるとは思っていません。私たち修道会もそれなりの裏組織をもっています」という言葉にゴルゴとの接点が存在する。聖書の一節を狙撃で表現し同時に警告とする高度な技を堪能できる。
臓器移植が生む命の選別
これは『硝子の要塞』同様、臓器移植の裏に広がる深い闇を描いており、カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』の、臓器移植のためだけに作られたクローン人間達の生を描いた近未来の物語を連想させる。
臓器移植に関しては、生命が救われる反面、幼児の誘拐や、反社会勢力への借金の代わりとしての臓器提供などの犯罪行為が生まれていることも否めない。さらに、費用面も含め、中国での移植手術が比較的人気が高いという話もあるが、提供される臓器の一部に、死刑囚のものも含まれているという噂もあり、闇の深さを伺わせる話である。
現実は厳しくとも理想を見失ってはならない
池波正太郎は「人は悪いことをしながら良いこともする矛盾した存在」といっているが、組織も同様の面がある。ゴンドーフは難民を救済しつつ、一面的な価値観で子供を選別して教育し、その他の子供の臓器売買により不法な利益を得ている。
ヨハンソンはこの手法に反対であるが、お互い孤児であった境遇、理想に燃えた若い時代に苦楽を共にした経験、そして男同士の友情を超えた深い関係から、苦悩しつつも不法行為を止めることができなかった。彼はゴルゴの銃弾を機に、かけ離れてしまった難民救済の理想に今一度立ち戻らなければならない。
この作品が読める書籍はこちら
野原 圭
最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:増刊第100話『獣の爪を折れ』のみどころ - 2024年8月18日
- ゴルゴ13:第485話『欲望の輪廻転生』のみどころ - 2024年7月30日
- ゴルゴ13:第520話『未病』のみどころ - 2024年7月29日