この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第181巻収録。ドイツの自動車メーカー・ライマー社が、サブプライム破綻の煽りを受けて経営危機に陥る。事態を乗り切るため、子会社のフォルツ社の吸収に動くが、フォルツ社は合併を頑なに拒否。その裏にはライマー社のガソリン自動車産業瓦解へのシナリオがあったのだった……。
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フォルツとライマー
本作は自動車業界の物語だ。登場する自動車メーカーのフォルツ、ライマーは、それぞれフォルクスワーゲン、ポルシェをモデルにしている。フォルクスワーゲンとポルシェの間では、実際に本作と同様の買収劇があった。2008年にポルシェがフォルクスワーゲンの株式を43%取得し、事実上傘下にしたが、その後ポルシェが資金繰りに詰まり、2012年には逆にポルシェがフォルクスワーゲンの子会社となってしまったというもの。事実は小説よりも奇なりというが、まさに漫画のような逆転劇が実際にあったわけだ。
そういうダイナミックな世界だからかだろうか、ゴルゴ13では自動車業界の話がよく出てくる。『キメラの動力』『アジ・ダハーカの羽』『ゼロ・エミッション 排ガスゼロ』などがその代表作だ。一方で、近年では電気自動車の台頭が目覚ましい。本作に登場するライマー社のCEOバートランドも、本音ではガソリンエンジン車よりも電気自動車に将来をかけようと暗躍している。最近の動きなどを見ると、この点では彼が正しかったのかもしれない。
ゴルゴと車
ゴルゴと自動車の縁も深い。ゴルゴは狙撃だけなくドライビング・テクニックもピカイチだ。『殲滅』でのカーチェイスが有名だが、そのほかにも彼の卓越した運転技術がわかるシーンは数多くある。そんなゴルゴは定期的に運転もトレーニングしたようで、本作ではその様子が垣間見られて興味深い。年に一度、サーキット場を借り切ってさまざまな車を乗り比べている。いつどんな車に乗ることになっても、対応できるようにしているのだろう。
業の深い一族
本作に登場するライマー一族は実に業が深い。一族の暗殺をゴルゴへ依頼するほど憎しみ合っている。ライマー社の会長ディートリヒは、娘婿のクルツを事故死に見せかけて暗殺することがせめてもの思いやりといっているが、そんなのは思いやりでもなんでもないだろう。また、クルツを殺害する必要がなくなった後も、どうやってゴルゴへの依頼を中止しようかと逡巡している。
自らを犠牲にして依頼を中止しようとするまでの男気はないようで、なんともいえない情けなさを感じる。クルツもクルツで、嫁のシュテフィに何度も危ない橋を渡らせている。シュテフィも父親のオフィスへ盗聴器を仕掛ける始末で、まさになんでもありの一族といってよいだろう。最後は一応和解してハッピーエンドのように見えるが、こんな有様では早晩瓦解するのではないかと思うのは気のせいか。自分は庶民でよかったとひがみ半分に思うのだった。
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秋山 輝
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