この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第195巻収録。引退した銃床(STOCK)職人とゴルゴのプロ同士の絆を描く。妻に先立たれ自死を考える銃床職人・ピエールの前にゴルゴが現れ、自分用にカスタマイズした銃床の制作を依頼する。ひたすら男同士の絆にスポットが当てられている異色作。脚本:ながいみちのり
スポンサーリンク
ゴルゴと銃職人・ピエールとの魂の交流
妻を亡くし、自分もあの世に旅立とうとしていたピエールを訪ねてきたゴルゴ。最初は彼の申し出をすげなく断るピエールだが、亡き息子の面影を宿す謎の男に徐々に惹かれていく。ピエールの心の変化をとおし、仕事とは、人生とは何かを深く語りかけてくる名作である。
ピエールが「落ち着けって相棒」「面倒な奴だ」など、ゴルゴに遠慮のない言葉をかけているのに驚く。それはこの世に未練などなく、また、彼を息子のように思っているからだろう。そして完成させた「部品」はゴルゴにとって最初で最後の依頼による「遺作」となってしまった。

ゴルゴの哲学に触れる数々の言葉
本作には数々の含蓄ある珠玉のセリフが並ぶ。社会学者ハンナ・アーレントは「仕事とはそれを通して世界を見ることができるもの」といっているが、ゴルゴの仕事はこの言葉にあてはまる。ピエールの「人生の中で仕事がすべてかい」に対して「仕事はすべてじゃあない。
すべてが仕事だ」と返すゴルゴ。これは仕事のために生きているのではなく、生きることは仕事をすることであり、仕事が生きている証である、という意味ではないだろうか。彼は休息しても遊ぶことはない。休息も仕事の一部なのである。天職を得た人間は遊びを必要とはしない。
手は口ほどに物を言い
職業を知るには「手をみる」に限る。手は嘘をつけないからだ。ゴルゴの手のわずかな違和感も見逃さず、自分の命の残り火を賭けて、我が子を遺すかのごとく心血を注いだ依頼の品を、ピエールは命がけで守る。
ラストで「射手の手を読む」ピエールの手をゴルゴが握ることで、依頼の品が無事であり確かに受け取ったことと、その礼を伝えるシーンはシリーズ屈指の胸に迫る名場面である。本作は「夏の老人」に通ずる重要なテーマが底流にある。それは、機械化により急速に失われゆく職人技術継承の危機についての警鐘を鳴らしていることだ。

この作品が読める書籍はこちら


野原 圭

最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:増刊第100話『獣の爪を折れ』のみどころ - 2024年8月18日
- ゴルゴ13:第485話『欲望の輪廻転生』のみどころ - 2024年7月30日
- ゴルゴ13:第520話『未病』のみどころ - 2024年7月29日