この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第78巻収録。KGBでもNo.1の呼び声が高い敏腕・キリール。彼は二重スパイ容疑で逮捕されるが、ソ連軍内部の反政府組織への潜入捜査を条件に極刑を免れる。組織に潜入したもののKGBに見放されてしまったキリールは、アフガンにいる2000人の兵士を扇動してクーデターを計画する……。脚本:安達謙太郎
スポンサーリンク
殺害人数2千人! 驚異の最多記録
一エピソード内での最多殺害人数を誇る回として知られる本話。クーデターを目論む兵士達の乗る貨物列車を湖に沈めて全滅させるのだが、その人数はなんと2千人! ゴルゴの通算殺害人数は5~6千人というのが定説だが、なんとその内の3分の1を今回で稼いでいるのだ。
さぞとんでもない報酬額に……と思うが、よくよく見直してみると、依頼内容はあくまで「反乱部隊のモスクワ侵入阻止」であり、殲滅という手段を取ったのはゴルゴの独断であることがわかる。いずれにせよ、流石の彼といえど、これほどの規模の「仕事」は後にも先にも今回のみだ。
捨て駒スパイが見せた土壇場の胆力
本話の主役ともいえるキリールは、銃殺刑の免除と引き換えに反政府組織「十月」への潜入を命じられるものの、結局はKGBにも捨て駒にされてしまった哀れな男。使い潰されるスパイの悲哀を描いたエピソードには『国家秩序維持省』などがあるが、キリールが凡百のスパイと異なるのは、土壇場での破れかぶれの行動力だ。
「十月」への潜入がバレた直後、彼は吹っ切れたように組織のメンバーを説得し、クーデターを扇動する。死線を超えた男ならではの胆力を見せつつも、生きていたいと熱弁を振るう彼の姿には、最後まで目が離せない魅力があった。
ペレストロイカの流れを作品に反映
哀れなキリールの奮闘がメインとなる本話だが、その背景には軍縮や情報公開といったペレストロイカ(改革政策)を巡る対立が横たわっていることが作中でも語られている。末期ソ連を印象付けるペレストロイカという言葉が日本でも知られるようになったのは1987年頃。
本話の発表は1988年1月であるが、例によって世界の動きを作品に反映させる迅速さには脱帽の一言。東側諸国をよく舞台にしてきた『ゴルゴ13』だが、この頃になると、東西の諜報戦という従来定番だった題材に代わり、ソ連国内の事情に軸足が移ってきているのが興味深い。
この作品が読める書籍はこちら
東郷 嘉博
最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第536話『神の鉄槌』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第552話『受難の帰日』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第535話『森と湖の国の銃』のみどころ - 2024年9月19日