この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第92巻収録。1989年の六四天安門事件を題材に描く。中国・北京の天安門広場には民主化を訴える学生らが集結。その群衆にはチベット独立急進過激派のサムテンが潜入していた。サムテンは広場で爆薬を爆破させることで、世界の目をチベット問題に向けさせようと画策するが……。脚本:新井たかし
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リアルタイムドキュメンタリー
第二次天安門事件は1989年6月3日に起こった。このエピソードは第二次天安門事件のまさにその瞬間と、それから1年後の狙撃で幕を閉じる。そしてこのエピソードの初出は1990年10月。記憶が新しいどころか、まさにリアルタイムで起こった歴史的事件を下地にしたエピソードなのだ。
これほどの事件をほとんどリアルタイムで漫画という媒体に落とし込み、フィクションの舞台にするのは場合によっては問題になりかねないだろうが、当時の読者の高揚感は計り知れない。願わくば初出のタイミングで読みたかったと叶わぬことを考えてしまう。
フィクションとリアルの境目
第二次天安門事件は学生たちによる中国国内の民主化運動の果てに起こった惨劇だった。そこにチベット独立問題を絡めたのはフィクションだが、読んでいてまったく違和感が無い。
むしろ、第二次天安門事件自体、中国政府が公式には認めておらず情報も限られているだけに「このエピソードはフィクションのふりをしたリアルなのでは」とすら思ってしまう。フィクションの部分も手を抜かず、厚みのある描写をしているからだろう。
歴史と国家と情と
このエピソードでのゴルゴの狙撃は技術的には決して難しいものでは無い。しかし、国家間のセンシティブで緊迫した状況や密かな親子の秘密を1年越しに守ったまま狙撃することはゴルゴでなければ難しいだろう。
長期連載なだけに、エピソードによってはゴルゴでなくとも…という回があることは否めない。しかし、“ゴルゴでなければ”というのは技術だけでないというのも事実だ。歴史と人の情をゴルゴの狙撃で紡いだ、隠れた名エピソードだと思う。
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大科 友美
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