この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第189巻収録。藻類から石油を作る技術開発をすすめる研究所から、生物毒が流出する事故が発生。研究の第一人者・白髪教授は原因究明を急ぐが、そんな中、助手の塩見が研究の核となるオーランチオキトリウム株を奪って逃走してしまう……。
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綺麗事だけでは生きられない研究者の悲哀
グリーンエネルギー開発を巡る日米の競争が描かれる本話。政府や民間スポンサーから巨額の予算を獲得できるアメリカ側に対し、雀の涙ほどの研究費でやりくりせざるを得ない日本の研究者の現実に焦点が当てられ、それが人間ドラマの軸ともなっている。
貧しい研究環境でも矜持と愛国心を貫く白髪教授と、その教授を尊敬しながらも裏切ってしまう塩見。金のためというより、満足に研究を続けるために裏切りに走った彼の姿には、悪人とは断じきれない人間らしさが滲み出ていた。日米の研究開発費の格差は、今も拡大の一途を辿るばかりである……。(※1)
自分自身を囮にするゴルゴの巧みな作戦
日本の高速道路でベンツを走らせ、監視カメラ網とNシステムで公安警察に行動をキャッチされているゴルゴ。隠密行動が難しい時代になったことの現れだが、作中で井上部長らも言っているように、ゴルゴがただ考えなしに自身の姿をカメラに収めさせているはずがない。
事実、敢えて自身の動向を察知させ、警戒を焚き付けることで、教授の近辺にいる裏切り者を炙り出すのがゴルゴの作戦だったのだ。教授の護衛に回っていた警察としては一本取られた形。全てを合理的に利用するゴルゴにとっては、自分自身の存在さえも格好の囮ということだろう。
日本がエネルギー産出国になる日は近い?
本話の依頼人は作中では明かされないが、アメリカのグリーンエネルギー開発を阻止したいアラブ諸国の差し金という推測が、ビル・ゲイツ氏をモデルとするゲーリック氏の口から語られている。予算のない日本になら好きにさせても構わないというわけで、我が国にとっては不名誉な話だ。
しかし、現実には、日本の研究機関による開発は今も進んでおり、2023年には、油を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功したとの発表もあった(※2)。日本が新時代の「産油国」に名乗りを上げる日は、着実に近付いているのかもしれない。
(※1)出典:ITmediaNEWS『科学技術の研究開発費、米中との差がさらに広がる 博士号人材の登用進まず』2021年08月12日
(※2)出典:NEDO『世界初、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功』2023年4月12
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東郷 嘉博
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