この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第204巻収録。高原省第一書記である曽安立。彼の数奇な人生を軸に、資本主義への脱皮を目指す中国を描く政治&人間ドラマ。ある日、公安警察から呼び出しをうけた曽は、敵対する公安部長から曽を失脚させうる機密情報を突き付けられる……。
スポンサーリンク
激動の中国を描き出す歴史スペクタクル
共産党幹部・曽安立の人生を通じて、文化大革命から改革開放に至る中国の激動の歴史を描き出した本話。処刑された父の形見として曽が託され、生き別れの恋人を経て娘の手に渡った古い腕時計が、全編を繋ぐキーアイテムとして効果的に用いられている。
誰もが人民服に身を包んでいた時代から、欧米由来のスーツが幅を利かせる現代への視覚的転換も印象深い。世界第2位の経済大国にのし上がり、「改革開放」から「共同富裕」へと舵を切った今日の中国。変革の歩みを止めないこの大国は、20年後には世界でどんな立ち位置にいるのだろうか。
いつしか黒く染まっていった理想
中国にも「近朱者赤、近墨者黑」(朱に交われば赤くなる)という言葉があるが、当初は高潔な理想に燃えていたはずの曽安立が、出世するにつれて黒い手段も厭わなくなっていくさまには考えさせられる。
かつては架空名義のキャッシュカード一枚にたじろいでいた彼だが、後には義兄と自身の窮地を救うため、自ら偽札作りを持ちかけるまでになる。ゴルゴを雇って公安警察を返り討ちにし、さらに義兄の毒殺にまで手を染めた彼の所業は、もはや清廉の士と呼べるものではなかった。それでも彼は、死の瞬間まで国家の未来を願っていたのだろうか……。
実の父を許せなかった悲劇のヒロイン
曽と若き日の恋人との間に生まれた娘・徐麗香もまた、数奇な運命に翻弄された哀れなヒロインだ。父の顔を知らず、成人後も李の慰み者としての人生を強いられてきた彼女。紆余曲折を経て出生の真実を知るものの、親子が手を取り合ってハッピーエンドとは行かないのが人間の業。
本話のラスト、再び姿を見せたゴルゴに実の父の狙撃を依頼していたのは彼女その人なのである。父の居ない寂しさ以上に、彼女はきっと母と自分に辛く苦しい人生を背負わせた父のことを許せずにいたのだろう。誰も幸せになれなかった終幕に翻る五星紅旗が印象的である。
この作品が読める書籍はこちら
東郷 嘉博
最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第541話『PTSD』のみどころ - 2024年9月16日
- ゴルゴ13:第613話『オープンダイアローグ』のみどころ - 2024年9月14日
- ゴルゴ13:第611話『逆心のプラントアカデミー』のみどころ - 2024年9月13日