この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。スコットランド独立問題に揺れる英国では、国家主義派(独立を阻止したい)と独立派が対立。そんななか国家主義派の大物ウェンライトが不可解な行動をとる。裏でウェンライトを操る謎の女性とは? そしてゴルゴがこの問題に絡み……。脚本:氷室勲
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国家主義者の命を賭した「覚悟」とは……
まだ記憶に新しいEU離脱と並行して、スコットランドの独立問題という複雑な事情を抱えているイギリス。本話では、独立反対派の国家主義者・ウェンライトを中心に、彼を変節させようとする試みや、彼自身によるゴルゴへの驚くべき依頼などが描かれる。
頻繁に挟まれるシェイクスピアの引用や、ビートルズへの言及もいい味を出している。狙撃前のゴルゴが「そういえば、後装式の小銃の発明もスコットランドだったな……」と、仕事に直接は関係のないことを一人考えているのも面白い。イギリス絡みの蘊蓄尽くしの一話だったといえる。

ゴルゴと「007」の時代を超えた対面?
本話に登場する名俳優、シェーン・コナリーのモデルは勿論、言わずと知れたショーン・コネリー。007ことジェームズ・ボンド役で一世を風靡した俳優だが、作中の通りスコットランドの独立を熱心に支持していたことでも知られ、ナイト称号の授与式にキルトで参列したのも現実の話である。
007シリーズといえば、さいとう先生が『ゴルゴ13』の連載前に劇画を担当していたこともあり、初期の饒舌なゴルゴにはボンドのイメージが反映されているとも言われる。そう考えれば、ゴルゴとコナリーの対面は「夢の新旧共演」だったのかもしれない。
美人運動家による巧みな籠絡術
色仕掛けを武器とする女性が出てくる話は総じて名作だが、本話のビアンカがウェンライトを籠絡していく過程も生々しくて面白い。敢えて彼の政治思想と相反する言葉をぶつけて興味を引き、体に溺れさせて愛人に収まってから真意を明かして選択を迫るという鮮やかな手口であり、これに抗える男性はそう多くはないだろう。
なお、スコットランドの二度目の独立投票については、2022年11月、最高裁で「英国政府の同意なしには実施不可」との判断が下り(※1)、2024年の総選挙では独立派は惨敗(※2)。ビアンカらの宿願が叶う日は遠そうである。
※1:NHK「スコットランド独立を問う住民投票 実施できず 英最高裁が判断」(2022年11月24日)
※2:毎日新聞「スコットランド独立運動、後退 英総選挙惨敗 住民、経済に関心」(2024年7月12日)
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東郷 嘉博

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