この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第13巻収録。無宿人や病人にタダで食事を振舞う飯屋があると聞き、平蔵は浪人に扮して潜入。偶然、店に殴り込みをかけてきたチンピラを叩きのめした平蔵に、飯屋の店主は「金になる仕事」を持ちかける。それはなんと長谷川平蔵殺しの依頼だった……。
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化けの楽しみは原作者の経験から
土蜘蛛の金五郎という題名で内容を思い出さなくとも、「平蔵がずっと風呂にも入らず食い詰め浪人を装う話」だと聞けばピンとくる読者は多いはず。それだけ浪人になりきった平蔵の姿は印象的だ。しかも平蔵だけでなく左馬之助が平蔵に成り代わるなど、設定からしてもう面白い。
平蔵は妻の久栄に「自分でありながら、全く別の人間に化ける楽しみ」と面白さを語っている。実はこれは原作の池波氏自身の経験から出た言葉だ。
池波氏は旅先で自分の職業も名前も出身地も偽って、まったくの別人としてふるまうことが多くあった。確かに自分自身ではない何者かになる、というのは自由そのものだろう。
素手でも強い平蔵
江戸時代の侍は実はあまり刀の扱いが上手くなかったという学説がある。江戸時代は基本的に平穏な時期で、刀を抜くような機会は少なかったとされる。いわんや侍が素手で諍いをするということもほとんど無かっただろう。
そんな中で鬼平は剣術の達人であり、さらに素手の喧嘩もめっぽう強い。剣術は道場に通った成果だが、喧嘩は本所の鬼銕時代に身につけたものだ。
劇画版では刀でやり合うときよりよっぽど大きな書き文字で効果音が描かれ、平蔵の拳の重さ、強さがよく伝わってくる。コマの視点もまるで映画のようにくるくると変わり、平蔵の腕っぷしが強調されるカメラワークになっている。
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庶民に愛された鬼の平蔵
彦十と五郎蔵がどんぶり屋で平蔵が殺されたといった瞬間、店内が衝撃に包まれた。次の瞬間にはどんぶり屋で食事をするような江戸っ子たちがこれからの江戸がどうなるのかと口々に不安を言い交す。
私は正直に言って現代のようにインターネットやテレビ、SNSがある時代ならともかく、江戸時代で庶民がここまで鬼平を知っているものかと考え、この庶民の反応はあくまで創作だろうと思っていた。
しかし史実として鬼の平蔵は庶民に「本所の平蔵さま」「今大岡」と呼ばれ、慕われていたのだというから驚く。もちろんこのエピソード自体は創作だが、もし平蔵が暗殺されていたとしたら江戸っ子は劇画版作中と同じ反応をしたに違いない。
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大科 友美
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