この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第134巻収録。種子生産会社・ハイクロップ社で商品価値のないデントコーンが大量栽培されているという。そのことに疑問をもった中国の植物学者が、助手とともに調査に乗り出した。浮かび上がったのは畜産飼料市場を独占するため、除草耐久性をもたせた害虫をばらまき、大規模な害虫汚染を企むハイクロップ社の陰謀だった……。脚本:夏緑
スポンサーリンク
どこに着目するかで評価が分かれる
筆者はこの害虫戦争というエピソードが好きだ。この作品は1999年に発表されたが、ちょうどそのころ話題になり始めた遺伝子組み換え作物とその利権がテーマになっている。輸入の遺伝子組み換え作物の安全性審査が義務化されたのが2003年ということを知ると、この話がいかにタイムリーで、かつ時代の先端を行っていたかわかるだろう。
確かに説明調のセリフが多すぎるきらいはあるが、遺伝子組み換え作物に関わる問題は安全性だけにとどまらないと実感を持って知ることができる。この作品を好きだというゴルゴファンは知識の緻密さが好きな人が多いようだ。では評価が分かれるとはどういうことか。それは今回のショットがあまりにトリッキーすぎるのだ。

ターゲットはヒトではなく幼虫
今回ゴルゴのターゲットは人間…ではなく、なんと虫。遺伝子組み換え作物の開発に遅れを取る種子メーカーがトウモロコシの害虫を世に放ち、既存のトウモロコシを全滅させようと計画していた。その後、害虫に耐性のあるトウモロコシ種子を販売すればそのメーカーが独り勝ちになる。
依頼は、メーカーの工場で育てられている害虫の幼虫を全滅させてほしいという内容だった。最初、虫を兵器として使うというのはゴルゴとはいえあまりに奇天烈だと思った。しかし現実で起こらないと誰が断言できるだろう。実際に農薬代わりに使うために瓶詰された虫は販売されている。つまり虫を生産する工場は実在するのだ。そう思えば害虫を世に放つことも非現実的ではない。
ゴルゴらしくない? ゴルゴらしい?
さて、ファンのなかでも賛否分かれる狙撃とはいったいどんな狙撃なのか。ゴルゴが依頼者から受け取ったのは幼虫に作用する細菌だった。これを工場の給水塔に入れることができれば幼虫は全滅する。問題は狙撃地点だ。工場の警備は厳重で、もっとも近い狙撃地点からでも給水塔まで5㎞もある。いくらゴルゴでも銃だけではこの距離を超えて細菌入り弾丸を打ち込むことはできない。
そこでゴルゴが利用したのは強い上昇気流だった。ゴルゴが放った弾丸は上昇気流に乗り、そして5㎞先の給水塔に見事入った…。とはいえ、季節風の類ではなくいつ発生するかも分からない上昇気流を使って5㎞先の給水塔にシュートというのは確かにあまりにトリッキーだ。私個人としてはゴルゴのすごさを感じるばかりなのだが、ファンによっては苦笑を禁じ得ないというのも判る。

この作品が読める書籍はこちら

大科 友美

最新記事 by 大科 友美 (全て見る)
- ゴルゴ13:第435話『地上の太陽』のみどころ - 2024年7月28日
- ゴルゴ13:第429話『真のベルリン市民』のみどころ - 2024年7月21日
- ゴルゴ13:増刊第73話『ピンヘッド・シュート』のみどころ - 2024年4月24日