この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第56巻収録。日本企業の機密がKGBの手でFBIに持ち込まれた。これは元FBI防諜室のエッカートが企図した囮捜査によって、赤っ恥をかかされたKGBと日本の青年官僚たちの復讐劇の序章だった……。空中に舞う落ち葉をターゲットの目前で打ち抜くなど、ゴルゴの神業スナイプが連発する。脚本:きむらはじめ
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島耕作シリーズを連想させる日米技術競争
現実の世界情勢から取った題材の幅広さに定評のある『ゴルゴ13』。今回のエピソードは、1980年代に実際に起きた日米半導体摩擦をベースにしている。本話に登場する「旭製作所」は日立製作所、「ICM」はIBMのもじりであることは言うまでもなく、島耕作シリーズを思わせる現実と虚構の交錯が今回の見所だ。
ちなみにIBMがパソコン競争で世界の覇権を握ることとなったのは周知の通りだが、その後のIT産業はソフトウェアやネットワーク技術に主軸が移り、IBMも日立もパソコン事業は手放してしまった。世は諸行無常である。
人種問題に踏み込み珍しく饒舌なゴルゴ
今回の依頼人はゴルゴを同じ日本人と見て歓迎するが、当のゴルゴは「俺の人種がどうあれ……仕事には関係のないことだ」と切って捨てている。そこまではいつもの彼なのだが、その直後、アメリカ人の日本人への認識を改めさせたいと言う依頼人に対し、彼は「改めてどうなる?」と言い返す。
珍しく饒舌になって「国境や人種を前提としている以上は同じ穴のムジナだ」と持論を語っている。普段のゴルゴなら、それこそ依頼人の動機を聞いて「そんなことは無駄だ」などと説教をぶつことはない。やはり日本人には無意識に肩入れしているのだろうか?
ターゲットを戦慄させる死の宣告
他のエピソードでも数々の神業スナイプを披露しているゴルゴだが、今回は人が持っているケースの中の半導体の基幹部を正確に破壊したり、ターゲットに警告を与える意味で眼前の落ち葉を撃ち抜いたりと、印象的な小技が二度も炸裂している。
特に宙を舞う落ち葉を撃ち抜くというのは、直線的ではない動きの対象物を狙うぶん、見た目以上に高度な技術が必要とされる狙撃に違いない。作中、穴の空いた落ち葉が眼前に落ちてくるのを見て、自分がゴルゴに狙われていることを確信し、戦慄の表情を浮かべるターゲットの姿は実に印象的である。
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東郷 嘉博
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