この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第6巻収録。念流の達人・上杉周太郎が登場。その上杉を第一巻収録「本所・桜屋敷」に登場した”小川や梅吉”の実弟・霧の七郎が、辰蔵殺しの刺客として雇う。しかし、辰蔵と上杉のあいだに妙な友情が芽生えてしまい、物語は思わぬ方向へ……。上杉の素性とは一体?
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盗賊には盗賊の人生がある
兄のかたき討ちと言って平蔵の命を狙う盗賊、霧の七郎。前話では幼女お順を誘拐し、今回は腕を見定めた浪人を雇って鬼平の命を取ろうとした。
霧の七郎とその兄小川や梅吉という盗賊兄弟の名前はところどころで幾度も出てきたが、彼らの生い立ちがとうとう語られた。貧しく不遇な子ども時代を支え合って生き延びたのだから、生半可な絆ではないことは確かに理解できる。
梅吉が盗賊の一味である以上、平蔵が梅吉を捕まえたこと、そして刑に処したことを恨むのは逆恨みでしかない。ただ、生い立ちを知ると霧の七郎の悲しみは理解できる。人でなしの盗賊にも彼らなりの人生があり、愛する親兄弟もいる。
人生は見た目で決まる?
女性だけでなく男性の美醜にも手厳しいのが鬼平犯科帳だ。原作者の池波正太郎氏がファッションや見た目にもこだわりのある人だったからこそなのかとも思うが、凡人には耳が痛くなることも度々だ。
上杉が類まれな剣士でありながら浪人にまで身を落としていた理由を平蔵は「あの顔かたちで損をし続けてきたのだ……世の中の多くの者は、うわべだけで“人の値打ち”を計ってしまう、でな……」と辰蔵に語る。
身なりはともかく顔かたちは生まれついてのもので、そう変えられるものではない。それが要因だと言ってしまうのはあまりに酷だが、しかし自分のなかにその偏見は無いかと問いかければ返す言葉は出ない。決して褒められたことではない。
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中身を見る人間でありたい
平蔵の息子辰蔵は剣の腕前こそ今の段階ではからきしだが、肝は据わっている。しかも上杉の剣の腕前こそ正しく図れなかったが、自分を斬りに来たという上杉とすぐに打ち解けてしまったのは、辰蔵が中身を見る人間であることの表れだろう。
平蔵も他者の容姿へこだわりがあることを伺わせるセリフをちょくちょく言うものの、美醜や身なりで態度を変えることは無い。相手の見た目を気にしない、というのは言葉ほど簡単ではない。
口でそう言っている人ほど実のところ見た目にこだわりがあるものだとも思う。平蔵や辰蔵は相手が誰であれ態度が素直だ。媚びもへりくだりもせず、尊大にもならない。自分もかくありたい、とこの話を読むたびに思う。
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大科 友美
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