この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第79巻収録。一夜にして700人以上が米軍に殺された“ソンミ村事件”は、実は細菌兵器の人体実験だった。その様子が克明に記録されたフィルムの存在を知った米陸軍情報部は、フィルムの持ち主・ブーンを追ってオーストラリアへ。しかし、そこには別件で依頼を受けたゴルゴの姿があった……。脚本:牧戸次郎
スポンサーリンク
謎に包まれた標的、ウィリアム・ブーン
本話の標的であるパーカーこと本名ウィリアム・ブーンは、ベトナム戦争中の虐殺事件に加わっていた過去を持つ元脱走兵。彼の隠し持つ機密フィルムの存在が本話の骨子となるが、このブーン、第三者により来歴が語られるシーンは多いが、当の本人の思惑がほとんど画面から伝わってこないのが不気味でもある。
一方、本人と対照的に、事件に巻き込まれて混乱する彼の家族の姿は生々しく描かれている。夫の無実を信じて泣きわめく妻の姿には同情を禁じえないが、ブーンは果たして妻子を欺いていたのか、それとも人々の前では本当に好人物だったのか……。
小粋な一言で謝礼を受け取らせるゴルゴ
協力者に気前よく謝礼を弾むゴルゴの姿もお馴染みだが、本話に登場する老医師とのやりとりは特に印象深い。ブーンの頭部にフィルムを埋め込んだ張本人であるこの医師は、妻に先立たれて自暴自棄になっており、ゴルゴの謝礼を「カネなんかもういらん!」と突き返そうとする。
タダのつもりで情報を教えてくれた彼に、ゴルゴは珍し「ありがとう……」と礼を述べ、「あんたの奥さんに……花でもあげてくれ……」と金を置いて立ち去るのだ。部屋中を花で埋め尽くし、妻の遺影を前に涙を流す老医師の姿には、ゴルゴの滅多に見せない人情が垣間見える。
信念のない虐殺にプロは何を思うか……
本話では、ベトナム戦争中に実際に起こった「ソンミ村虐殺事件」を取り上げているが、そこで化学兵器が使用されたというのはフィクションであると思われる。史実では犠牲者は504名と記録されているが、本話の依頼人は「700人以上の村民が殺戮された」と語っており、いずれにせよ凄絶な事件であったことに間違いはない。
ゴルゴは依頼人の話を聞いて眉一つ動かさないが、同じ殺人でも、こうした無益な虐殺と彼の仕事とは対極に位置するものだろう。私怨でもなく仕事でもなく愉悦のための殺しなど、ゴルゴが最も軽蔑する対象かもしれない。
この作品が読める書籍はこちら
東郷 嘉博
最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第536話『神の鉄槌』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第552話『受難の帰日』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第535話『森と湖の国の銃』のみどころ - 2024年9月19日