この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第54巻収録。夫婦で営む豆腐茶屋の“やのじ”は、味が評判を呼び大繁盛。しかし激務がたたり、妻のおせつが倒れる。代わりに奉公人のおだいを雇う。一方、”やのじ”の前身は今は亡き盗賊・牛引きの彦衛門の盗人宿で、その床下には彦衛門の隠し金が眠っていたのだった……。
おいなりさん
穀物や農業の神様を稲荷神と呼ぶのだが、元々は“稲成り=いなり”が正しいとされるぞ。その稲荷神を祀った神社の事が、一般的には稲荷と呼称される訳だな。現代ともなれば稲荷伸は商業に関する全ての神様として扱われているので、様々な業種や業態の人々から信奉されていると言えるだろう。
稲荷神はキツネと非常に強い関連性があるのだが、これを紐解くと日本神話とウカノミタマの話にまで辿り着いてしまうので、ここでは省略させて頂くぞ。ともあれ稲荷神がキツネであるという認識は広く伝わっていると思う。故に稲荷へ奉納されるのは、キツネの大好物とされる油揚げなのだ。そこから転じて、油揚げに酢飯などを詰めた物を稲荷ずしと呼ぶようになった訳だな。
体を損ねた女将
稲荷ずしが評判で商売繁盛の茶店ではあったが、今でいうウェイトレスは女将さん一人。それだけ繁盛している店を一人で切り盛りするのでは、体が保つ訳もないと思うぞ。それでも一心に仕事を頑張って、店と家族を大事にする女将さんではあったが、案の定、体を損ねてしまう。
旦那の弥次郎は不器用ながらも一生懸命に働く者として描かれている。信心深い弥次郎は、稲荷への参拝も欠かさず行っているようだ。倒れた女将さんの代わりにやってきた女中のおだいは、どうにもやる気が無さそうに見えるな。鬼平の目から見ても何やらいわくがありそうだが、その正体とは果たして。
嫁入りした狐
不運な動物を助けた事から、その動物が恩返しをするストーリーは定番とも言えるだろう。このジャンル、実は呼び名があるのをご存知だろうか。“動物報恩譚”という名称でジャンルが確立しているのだ。
本作も、罠に掛かったキツネを弥次郎が救った事による動物報恩譚なのだが、キツネはどのように恩返しをしたのかが気になる所だろう。多くの読者は、怠け者の女中おだいがキツネと思うだろうか。ある時から働き者になり、気が利くようになったおだいは、まさにキツネの恩返しとして分かり易いかもしれない。
ところがだ、そこは鬼平犯科帳ワールドと感じたぞ。本作のタイトル「狐の嫁入り」を読み進めてその本当の意味を知った時には、非常に深い話に仕上がっていると感嘆したのだ。是非とも鬼平犯科帳の世界観で描かれた、狐の恩返しを読んでみて欲しい。
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滝田 莞爾
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