この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第194巻収録。コートジボワールで行われた児童の人身売買・強制労働を題材にして描く一編。少年時代に誘拐同然でカカオ栽培に従事させられた過去を持つアラン。彼は人身売買業者に殺された親友・サリフの仇を討つため、業者のリーダーと組織の黒幕の始末をゴルゴに依頼する。
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これを読んでもチョコレートを食べられるか
紛争や社会問題多発地域には常にこの男あり。内戦がテーマの『顔のない男』、経済問題を扱った『標的は陽気な悪魔』など、残念ながらアフリカの地にもゴルゴはしばしば登場する。今回は不法な児童労働という社会問題がテーマである。
今でこそ、チョコレート以外にも綿花生産など不法に労働力を搾取することが問題視され「フェアトレード」という言葉が普及してきたが、当時はチョコレートを口にしてもそんなことを想像した人はいないだろう。カカオ農園の悲惨な実態を目にしてしまうとチョコレートは苦いだけの味になるかもしれない。
イギリス階級社会の片鱗をさりげなく見せる
冒頭ゴルゴがアダマに対して放つ「教科書のようなクイーンズイングリッシュだな」のセリフで、アフリカンと思われる青年が、イギリス上流階級の育ちであることを説明している。イギリスは言葉のアクセントやイントネーションで階級がわかるといわれ、それを皮肉ったロマンスコメディーが『マイ・フェア・レディ』である。
カカオ農園で強制労働させられていた貧しいアフリカンも、上流階級の人の養子になれば、高い教育を受けて事業で成功することもできるが、イギリス国内の貧困地域に暮らす労働者階級の多くは貧しいまま一生を送るのである。
映画のような切ない結末が苦すぎる
読み終わって泣く、ということはほとんどあり得ないゴルゴシリーズだが、今回は、このまま映画のラストシーンになるのでは、と思われる幕切れに、胸がつまっておもわず涙がこぼれそうになる。おそらくゴルゴは、脱走が失敗した後、サリフが生きていた場合の行く末も知っていたにちがいない。
しかし、あえてそれを口にすることなく、アダマからの依頼を冷徹に遂行していく。もちろんサリフの生き方を責めることはできないが、アダマが真実を知れば、その傷は生涯、癒ることはないだろう。人生には知らないほうが幸せなことが、確かにある。
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野原 圭
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