この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。老舗の大店・相州屋が賊に襲われた。店の人間はもとより、引き込み女までも皆殺しにする残忍な手口だった。懸命の捜査にもかかわらず、全く糸口がつかめない火盗改方。しかし別件の女中殺害事件から物語りは急展開。それは筆頭同心・佐嶋が担当した二十年前の”ある事件”に関係していた……。
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佐嶋与力の酒エピソードと思いきや
佐嶋与力が老舗の酒問屋に登場する場面から、「蛸足の庄兵衛」などに代表される佐嶋の酒豪エピソードと思った鬼平ファンもいただろう。佐嶋と酒の絡むエピソードは非常に人気が高く、期待をしてしまうのは已む無いかもしれないな。しかし本作は酒がほとんど絡む事のない話で、佐嶋の過去がクローズアップされるストーリーとして展開して行くぞ。
全く素性の掴めない盗賊たちを追う火盗改メの尽力と、佐嶋の記憶が結びついた時、まさに蟻の一穴として盗賊への道筋を照らす事になるのだ。佐嶋の過去と盗賊の過去が結びつく理由は何なのか。読み応えのあるストーリーとなっているぞ。
千丈の堤も蟻の一穴より
本作のタイトルにもなっている蟻の一穴という言葉だが、この言葉は韓非子という中国の書物から由来しているぞ。韓非子は紀元前250年前後に中国戦国時代を生きた韓非という思想家の著書だ。矛盾、巧詐は拙誠に如かず、逆鱗などの故事成語も同じく韓非子からの出典となっている。蟻の一穴は、“千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰いゆ”という言葉から生まれたことわざだ。
千丈は3000メートルくらいの長さ、つまりそれだけ長く強固な堤防であっても、オケラや蟻といった小さな虫の開けた穴からほころびが生じて崩れ落ちる事があるという意味になる。万全と思いこんでいる事であっても、些細な油断から大事に至る場合もある。決して過信をしてはならないといった教えなのだ。
なんでも他人のせい
何か都合の悪い事が起こった時、人は得てして誰かのせいにしがちだ。自分に原因があったとしても、自らを戒める事はなかなか難しいのかもしれないな。必要以上に自分を責める必要もないのだが、誰か他人のせいにしているうちは小人と呼ばれるだろう。他人の仕出かした事は切欠に過ぎず、それらを含めての帰結全てに責任を負える者こそが頭に適しているのかもしれない。
会社や仲間との付き合いでも、自分可愛さ故に他人のせいにする人は多くいるのだが、結局は信用を失って大きな損害を被るなんて事はないだろうか。以吉は、おこんが自らを想う気持ちを見誤ってしまった。その気持ちを軽んじたが故に、仲間を売った物と勘違いをして取った行動こそが蟻の一穴となって堤を崩したのだ。
取返しの付かない失敗は、きっと自らの奢りにも原因があるように思う。目先の利益のために他人を責めるばかりにならぬよう、自戒が出来る人間になりたいものである。鬼平犯科帳は人生訓にも通ずるストーリーが登場する事もある。その一つとも言える本作は、お勧めの作品に仕上がっているぞ。
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滝田 莞爾
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