この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第99巻収録。ゴルゴの任務遂行のためには欠かせない協力者・ドン。そのドンの娘・シャーリーが暴行されたうえ殺害された。ドンは「犯人を突き止めるまではゴルゴの仕事を手伝えない」と譲らないため、ゴルゴは犯人探しに協力する。犯人をあぶり出すため、ゴルゴが講じた奇策とは一体……? 脚本:新井たかし
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バス待合室で繰り広げられる心理サスペンス
空港、駅、バス停、そこは人生の交錯する場所である。そしてほんのひととき、時間を共有するのが待合室。お互い名前も背景もわからない、その場だけの人間関係だから、旅の途中の気安さから、日頃は隠している本音を思わず話してしまうこともある。
今回はそんな雰囲気を持っている待合室で物語が展開する。政治・経済の裏でうごめく陰謀、銃撃、爆発、危機一髪の脱出劇など、複雑なストーリーやアクション満載のゴルゴシリーズの中で、まれに登場するサスペンス異色作であり、これを楽しみにしているファンも案外多いのではないだろうか。
会話の端々にかいまみえるアメリカ社会
「アメリカは人種のるつぼ」といわれるが、その一端を待合室という舞台を使って、実に効果的に見せている。セリフに「東部・のぼり」「南部・くだり」というルビが振られ、乗客にはアングロサクソンをはじめ有色人種、アジア人といった多様な人種が登場する。
さらに、ユダヤとキリストという異教徒同士の結婚と、改宗に伴う様々な軋轢など、宗教上の複雑な問題も説明している。そして東部・エリートの地域、というやっかみから「東部なまり」という表現で彼らを蔑み、露骨に敵視する様子などアメリカ社会の深刻な分断を浮き彫りにしている。
ビジネスの世界に通じる心意気
池波正太郎の『仕掛け人 藤枝梅安』シリーズの中で、梅安が殺しを行わなかった一作があるように、今回ゴルゴは『RBGの悪夢』同様、銃を使わず、殺人もしていない。
娘シェリーが何者かに殺され仕事が手につかない協力者ドンのために一肌脱ぐのだが、頭の足りないギャングのボスなら銃をつきつけて脅すところを、さすがはゴルゴ、いい仕事をしてもらうには精神の安定は欠かせないことを知っている。これでドンは、生涯ゴルゴを裏切ることなく、常に最上の仕事を彼に提供し続けることだろう。ゴルゴは最高かつ最強のビジネスマンでもある。
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野原 圭
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