この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。2020年9月。米最高裁のリベラル派判事・ガーランドは、現大統領がガーランドの死後、その後任に保守派の判事を指名するであろうことを危惧していた。米国の司法が保守化し、魔女狩りの道具と化すことが許せないガーランドは、ある計画をゴルゴに託すのだが……。
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法の番人が迫られた究極の選択
多くのアメリカ国民からリスペクトされ、Tシャツやマグカップにまでその顔がみられる最高裁女性判事・RBGが今回のモデルであることはいうまでもないだろう。その人がこの世を去ろうとするとき、唯一心残りとなったのが、民主主義の危機と法治国家の崩壊である。
多くの先進国は暴力による支配ではなく、法という概念により社会秩序を保つことを選択した。しかし法は守る気のない者達にとっては無意味な概念である。危機に瀕した民主主義によって選出された、法を踏みにじる指導者の暴挙を止めるために彼女が決意した究極の選択に驚く。
民主主義の哀しい成れの果て
『演出国家』のワトキンス教授の著作として紹介されている「民主主義が内包する最大の矛盾、それは時によって多数決が危険な民意を作り出す可能性がある」という事実が、後進国だけなく先進国でも進行しつつある。民主主義は、本来「理性と教養、一定の財産を持った市民」を前提に構築されたシステムであり、大衆を前提に考えていなかった。
加えてメディアの著しい変化により、民意の操作がより容易になってしまった。この問題を解決するには、大衆を政治から閉め出すのではなく、貧困を解決し、理性と教養を持つ市民を教育するしかない。
黄泉の国へ旅立つ要人の枕元に立つ男
『鄧小平のXデー』など、ゴルゴは臨終間際の要人の枕元にたたずみ、今更命を狙われる心配もないことからか、本音を語られる機会が多い。「法に身を捧げた者でも、窮地に追い込まれると無法にすがるのか」この言葉はあまりに重い。同時に社会を守るために無法にすがりたくなるRBGの気持ちも痛いほど理解できる。
法の番人がゴルゴに依頼したことは初めてではないだろうか。しかし結局彼が現実に引き金を引くことはなかった。だが、すべては夢のまた夢、もしかしたらゴルゴに会ったことさえ、彼女の夢の中のできごとだったのかもしれない。
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野原 圭
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