この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第193巻収録。カナダの雪原でイヌイットの老猟師と出会ったゴルゴ。ゴルゴをオーロラ撮影に来たカメラマンだと勘違いした老猟師は、ハンターとしての矜持について語りだす……。ゴルゴと老猟師の交流を通じて、プロフェッショナルの矜持とは何か問うハードボイルドな一編。
スポンサーリンク
袖振り合うも他生の縁、プロ同士の深い交流
複雑な国際情勢、利権の争奪、復讐といった内容の多いシリーズなので『落日の死影』のように、仕事がらみでもう一人のプロが登場するのかと思いきや、アラスカの厳しい大自然での、まさに一期一会の邂逅を描いたしみじみと心にしみ入る印象深い小品である。
人間を自然界の生き物の一種と位置づけて語り合う、ゴルゴとアラクとの深い哲学的会話とともに、ポーラーベアとグリズリーとの交配やアラスカのハンターの実状、私腹を肥やそうとする中国の高官などの要素により、環境問題、エネルギーを巡る利権など社会問題もきちんと捉えている。
安全管理の意味を持つハンターの掟
イヌイット同様、日本にも狩猟で生計を立てていたマタギという存在がある。このマタギにはとても厳しい掟があり、それを破ると2度と山へ入ることを禁じられる場合もある。
その中に、額に白い斑のある熊を撃ったらどんな名人も銃を置かねばならない、という掟があった。理由は明確ではないが、スコープなど銃の性能が今ほどではなかった時代、視力の衰えが危険につながるからではなかったかと推測している。アラクの場合も、もし若かったら見極めがついたのかもしれないが、ハンターとしては本望であり、ゴルゴの仕儀に感謝しているだろう。
機上のコーヒーはほろ苦い鎮魂の味
「君子の交りは淡き水のごとし」の言葉を思い起こさせる2人の関係だが、分野は違えども互いの力量を心から認め合ったうえで交わす会話が、実に意味深い。アラクは仲間の誰にも語ったことのない胸の内を明かし、ゴルゴも真摯に受け止め、我が身を重ねる。
アラクに熱いコーヒーをすすめられたとき、ゴルゴは心から嬉しげに表情を緩ませた。しかし大切なミッションの前、万が一の用心により、その好意に報いることができなかった。アラスカの空の上、アラクの魂を弔いつつ味わう苦いコーヒーは、ゴルゴの胸をことのほか熱くさせたに違いない。
この作品が読める書籍はこちら
野原 圭
最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:第592話『 複数弾同時着弾』のみどころ - 2024年3月14日
- ゴルゴ13:増刊第67話『シリコンアイランド』のみどころ - 2024年2月18日
- ゴルゴ13:増刊第3話『国際ダイヤモンド保安機構』のみどころ - 2024年1月3日