この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第205巻収録。個人情報の侵食や国家機密漏洩など、ビッグデータの台頭がもたらす危険性に警笛をならす一編。世界有数の広告代理店・雷広がスマホアプリを利用した個人情報収集に乗り出した。企業活動に役立てる名目だが、真の目的はなんと日本版NSAの設立だった……。
スポンサーリンク
社会や経済のあり方を提起する意欲作
目まぐるしいほどの場面転換により、スピード感あふれる息もつかせない展開である。斉藤幸平氏の著書『人新世の資本論』にあるように、私たちは、無料、便利、楽しい、お得などの餌につられ、知らないうちに大量の個人情報を搾取されている。その具体的手法に迫る秀作である。
読後は、ITを活用しているある国家のように、自分のデータが国も含め、誰にどのように使われたかをアクセスできるようにすべきではないかと強く願うようになるだろう。総理になれなかった「あの人」と思われる人物が幹事長として登場しているのもみどころだ。

空恐ろしい計略は、いったい何のためなのか
選挙当日、浮動票をブロックするための若者向けイベント、町の小さなスーパーをつぶすための戦略、そしてアイドルを利用した大量のデータ取得など、倫理なき醜い策略に思わずパソコンもスマホも捨てたくなる気分になる。
脳内では美しさを感じる場所と倫理を司る場所が同じという話もあるが、他人のプライバシーをのぞき見て、自分たちが「神」にでもなり得ると勘違いしている杉村と小田には、そのような感性のかけらも感じられない。データにばかり頼っているから、ヘリコプターの人影をゴルゴと思いこみ慌てふためいて術中にはまるのである。
ビッグデータは今後、本当に必要なのか
ゴルゴは杉村と小田が仕掛けた罠を逆手に取り、彼らをおびき出す。『麻薬地下鉄』にもあるように遠隔操作は逆探知されたり、データに振り回されるあまり逆に操作される危険性もある。日本は今後急激な人口減に直面する可能性もあるし、高齢者が増えれば行動パターンはそれほど変わらなくなる。
大量のデータは誰のために必要なのか。また目先の安さにつられスーパー森野のような店が消えるのは、消費者にとって結局大きな損失になりはしないか。データ活用のあり方を鋭く問い、無料、アプリ、ポイントに群がる人々に警鐘を鳴らしている。

この作品が読める書籍はこちら


野原 圭

最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:第560話「縄文の火」のみどころ - 2023年10月4日
- ゴルゴ13:増刊第78話『サンクチュアリ』のみどころ - 2023年6月14日
- ゴルゴ13:第595話『楽園の女』のみどころ - 2023年5月25日