この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。数百年にわたり外界と交流を絶ってきたインド洋の小島。任務のため島に上陸したゴルゴは全身を防護服で覆っていた。それには、ある特殊な依頼条件が関係していたが…。シリーズ屈指の異色短編。脚本:夏緑
スポンサーリンク
究極の楽園でのミッション
今回は、自分の利益のために都合良く利用していた男が邪魔になったので消えてもらう、という至ってシンプルなストーリーだが、現代社会の深い病理を、見事にあぶり出している。ゴルゴは島に上陸した後、なぜ奇妙なスタイルで行動するのか、ラストで明かされるその理由に、女の運命が深く関わっている。
ポイントためて豪華賞品、今ならブランド品全品半額、ラグジュアリーなインテリア・・・など、先進国の住民は、ほぼ例外なく消費を煽られ、その巨大な渦に巻き込まれている。この消費社会に、重い問いを突きつける哲学的な小品である。
女にとってスマホはパンドラの箱だった
文明社会と共存しながら、持続可能な生活を模索しているコミュニティ集団として「アーミッシュ」がある。彼らはティーンエージャーになると一度は文明社会の中で生活し、コミュニティ内で禁止されている飲酒などの行為も許される。
しかしある程度の年齢になると結局コミュニティに帰って来るという。おそらく消費社会での精神的消耗に耐えられなくなるのだろう。モーはスマートフォンを通して別世界を見たため『ラストグレートゲーム』の少年が、パリを「お洒落で素敵な夢の国」と勘違いしたように、その華やかな虚像に虜になってしまった。
すれちがい、分かり合えない男と女
文明社会の先端で生きながら、満たされぬ思いを抱えていたワンチャイは、セントールで人生の真実を知る。皮肉なことに真実の中に暮らしていたモーは、山の上にいては山の姿形の美しさが見えないように、その希少な価値を理解できない。
これは絵本にもなりそうな美しくも悲しい、現代のおとぎ話である。はからずも、真に清らかな人生を悟り、充足した心を抱いて旅立っていった男、哀れな女は、偽りの楽園に身も心も蝕まれ、真の楽園を捨てて、宝石を散りばめたような満天の星空の下、大海を流されていく。その行方はゴルゴにもわからない。
この作品が読める書籍はこちら
野原 圭
最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:増刊第100話『獣の爪を折れ』のみどころ - 2024年8月18日
- ゴルゴ13:第485話『欲望の輪廻転生』のみどころ - 2024年7月30日
- ゴルゴ13:第520話『未病』のみどころ - 2024年7月29日