この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第154巻収録。亡命者の楽園であるオセアニアのナウトロ共和国。ここでは外国人の入国は禁止され独自の完全秘匿システムが構築されている。国を追われたサウン連邦の元副主席サヤ・タンは、この地で隠匿生活を送っていた。だが彼の復権を恐れるサウン連邦のターキン将軍は、ゴルゴにサヤ・タンの暗殺を依頼するのだった……。脚本:夏緑、秋田茜
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おとぎ話のような国でゴルゴは何をする
以前「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」という言葉が流行ったが、これは、国民のほぼ全員がぼーっと生きている国の話である。たまたま発見された資源によって、国民がぶらぶら暮らせることになる。すると、皆ぼんやりして、ゴルゴを見かけたウランガが「あんな意志のはっきりした目に会ったのは何年ぶりじゃろう」と思うのだろう。
ターキン将軍の「この国は貧しく未開かもしれん」の「貧しく」は貨幣の支配からの自由、そして「未開」は環境保全、と読み替えられ、それはいわゆる「持続可能な社会」を意味することになりはしないだろうか。
人は何のために生きるのか
読みながら、ほぼすべての労働を外注し、働かなくても良いなんてうらやましい、と一瞬思うかもしれない。しかし、もしその外注先を失えば、無力な木偶の坊のような人間の集まりは滅亡するしかない。労働は生きるために時間を売ることであり、仕事とは、何かに仕え、それを通じて世界をみることができるものである。
理想は両方が重なることだが、労働から解放されたのなら、収入に左右されない仕事ができる。「料理はできるけれど今は必要がないからやらない」のと「料理はできない」のでは、結果としての行為は同じでも内容は雲泥の差だ。
消去法の抹殺
今回、ゴルゴは、サヤ・タンの「抹殺」を依頼されながら、狙撃のターゲットはサヤ・タン自身ではなく、別の物だった。ターキン将軍への指示など、ゴルゴの意図が読めず、謎が深まる展開だったが、結末にはなるほど、と膝を打つ。いつもながら柔軟な逆転の発想には怖れ入るしかない。
ゴルゴが実行したのは人間の生物学的な抹殺ではなく「社会的抹殺」だった。文明社会において、自分が何者であるかを証明しているものが、以外に脆弱なことを示している。サヤ・タンはこのサンクチュアリの島でぼーっとするほかなく、生ける屍となったのだ。
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野原 圭
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