この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第210巻収録。麻薬組織撲滅という大義のもと、麻薬組織の首領・リマディを狙うインドネシア軍のジャガド。しかしリマディはジャガドに関する“ある秘密”を握る人物だった。一方、暗殺の命をうけたアティ中尉が潜入したアジトでは、なぜかゴルゴが囚われの身となっていて……。脚本:平良隆久
スポンサーリンク
悲惨な戦場が炙り出す人間の「業」
『ティモールの蹉跌』から約20年を経て、再び東ティモールとインドネシアの関係に焦点を当てた本話。元ゲリラと軍人の積年の敵対関係を中心とする物語は、史実の虐殺事件も絡んで重厚な読み応えがある。
凄惨な過去を経て悪に染まったリマディと、罪を暴かれることに怯え保身に走るジャガドは、ともに悪人でありながら人間の「弱さ」が滲み出た一面もあり、戦場の異様さが人を変えてしまうことを痛感させられる。日本がもたらしたヒロポンが、負の遺産となって現地の人々を苦しめているくだりも含め、戦争の「業」を深く感じさせるエピソードだ。

死線を越えた者同士の無言のリスペクト
協力者との一期一会や、ゴルゴの「恩返し」も、本作の醍醐味の一つ。本話では、ジャガドと確執のある元ゲリラのヨギが、ゴルゴを窮地から庇い、戦闘用の弓矢まで気前よく貸してくれる。無線で急遽リマディ暗殺の依頼を受けたゴルゴが、自前の武器も装備もない状況でそのミッションを遂行できたのは、ひとえに彼の助けによるところが大きいだろう。
そんなヨギに銃を向けるジャガドを、彼らの因縁のナイフでゴルゴが倒すラストは痛快。無言の敬礼に同じく答礼を返し、ヨギと別れるゴルゴの姿には、死線を越えた戦士同士のリスペクトが感じられた。
弓矢一つで敵を全滅させるゴルゴの本領発揮
あらゆる武器を自在に使いこなすゴルゴだが、本話でのメインウェポンはヨギの作った弓矢。片腕を負傷した状態でありながら、小銃を持った敵を相手に一騎当千の活躍を見せるのは、装備の不足や窮地をものともしない彼の本領発揮といえる。
風向きを読んでリマディを射抜くべく、渾身の力を込めて「足引きの構え」で弓を引き絞っているゴルゴの表情も必見だ。冒頭、身一つで島に流れ着いた彼が、全身の傷痕のおかげでヨギに助けられたというのも運命を感じさせる。この男の最後の武器は、戦場を知る身体と、研ぎ澄まされた経験ということだろう。

この作品が読める書籍はこちら


東郷 嘉博

最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第536話『神の鉄槌』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第552話『受難の帰日』のみどころ - 2024年9月19日
- ゴルゴ13:第535話『森と湖の国の銃』のみどころ - 2024年9月19日