この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第208巻収録。アメリカとキューバの国交回復を下敷きに描く人間ドラマ。国交断絶時に亡命した人気投手・ホセは、国交が回復してからも亡命を手配した裏社会の人間・ジョージから恐喝されていた。思い悩んだ末、ホセはプロの殺し屋にジョージの始末を依頼するが……。
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今なお続くキューバ選手の苦しい事情
キューバ難民に焦点を当てた『フロリダ・チェイス』から17年、再び米国とキューバの国交事情が描かれた本話。キューバの野球選手は国家公務員的な待遇で国に囲われているが、薄給の上に自由もなく、メジャーリーグ入りを求めて米国に亡命するケースが後を絶たないという(※)。
2023年にも、中日のロドリゲス投手の亡命が話題になったばかりであり、決して過去の話ではないことが分かる。なお、本話のラストで言及されたトランプ氏は、後の『麻薬地下鉄』で作中に登場。2015年に国交回復に至った両国間の関係を、再び冷え込ませた張本人が彼である。
※出典:文春オンライン『秘密警察に監視され、給料の7割を取られ…ロドリゲスの亡命報道で思い出すキューバ人選手の辛い“現実”』(2023年4月19日)
殺人依頼に悩み続ける気弱な依頼人
殺人絡みの依頼とは切っても切り離せない『ゴルゴ13』だが、それに関する依頼人の苦悩が色濃く描かれたエピソードは珍しい。本話の主役であるホセは、ジョージを殺したくなるほど疎んでいながら、いざ殺人を依頼するとその後悔に震え上がってしまうほど臆病な心の持ち主。
他の依頼人が堂々と殺人依頼を口にするさまを見ていると、感覚が麻痺しそうになるが、本来はホセくらいの反応が普通なのかもしれない。そんな彼に代わって自分がゴルゴに依頼する、サンディの友情も見もの。キューバ出身選手の今後が明るいことを祈るばかりである。
「本物のプロ」とは無縁の者達の物語
ゴルゴへの依頼を巡るミスリードが本話の肝だが、分かった上で見直すと、ライターのマイケルが「凄い奴」「化け物のような男」と言いながらホセに殺し屋を紹介している場面もどこか滑稽に思えてくる。一般人が裏カジノで簡単に接触できて、電話一本でお手軽に依頼をキャンセルしてしまえる「プロの殺し屋」。
どんな人物だったのかは不明だが、CIAにツテを持つサンディとは異なり、ホセもマイケルも井の中の蛙だったということだ。ジョージも悪人ながら、殺し屋を恐れる人間味も見せており、総じて小物達が繰り広げるドラマだったといえる。
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東郷 嘉博
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