この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第158巻収録。パレスチナの秘密結社の幹部が、イスラエル軍に次々と暗殺される事件が発生。結社の長老は組織内にスパイがいると断定する。長老はイスラエルへの大規模攻撃を計画し、「Dr.アリ」なる人物に一任する。それは組織内に潜入したスパイをあぶり出す作戦であった……。脚本:ながいみちのり
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今も終息の見えないイスラエル・パレスチナ問題
イスラエルとパレスチナ自治政府の対立が続くヨルダン川西岸地区を舞台とする本話。本話から20年近くを経た今日でも、両勢力の軍事衝突は続いており、特に2023年に勃発したパレスチナ側組織・ハマスとイスラエルの戦争は、2024年7月現在も多くの犠牲者を出し続けている。
本話の「水際作戦」はブラフに過ぎなかったが、現実には今まさに、イスラエル側が入植者を利用して水源を奪い、パレスチナ住民の追い出しを図る作戦が各地で行われているという。作中で語られるように、ヨルダン川の水利問題が今後も両者の生命線なのは間違いないだろう。
最新兵器の背景にある人間対人間の戦い
誘導ミサイルによるピンポイント攻撃でパレスチナ側を追い込むイスラエル軍に対し、レーザーの照射役を務める内通者を仕留めることで襲撃を空振りさせるゴルゴ。ヘリからの攻撃といえども地上に誘導役は必要であり、敵側としてはその点を突かれる形になったわけで、他のエピソードでも度々描かれる「優れた兵器でも結局使うのは人間」という面が色濃く出たエピソードといえる。
ちなみに、変装した状態の写真をイスラエル側に握られてしまっているゴルゴだが、各国上層部には彼の情報は知れ渡っているので、今更気にすることではないのだろうか……。
古来の箴言にも語られる「信用」の危うさ
本話の中で度々印象的に使われている「箴言」とは、元はヘブライ聖書に収められた教訓の集合体であり、中国の故事成語や古代ローマの警句などと似た性質のものといえる。作中では「一つの壺を割られたら相手の百の壺を割ってやる」、「借りてきたロバは必ず死んでしまう」といった箴言が引用されており、アラブ人の思想の一端に触れられるようだ。
特に「他人を信じるべからず、自分も信じるべからず」という箴言は、ゴルゴの信条にも通じるものがあるように思える。「信用」を過信しないことこそ、今回のような内通者の炙り出しには必要なことだろう。
※出典:読売新聞オンライン「イスラエル人の入植者が水源奪い、パレスチナ住民の追い出し図る…ヨルダン川西岸で16集落消滅 」(2024年7月16日)
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東郷 嘉博
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