この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第206巻収録。かつて“地獄のダンサー”と呼ばれ恐れられた少女スナイパー・ジェーンが、20年後、ファンド・マネージャーとして成長し、日本に金融戦争を仕掛ける。金融・為替のウンチクは多いが、ジェーンが魅力的なキャラクターのため、金融・為替に明るくない読者でも読みきれる。
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スナイパーからトレーダーへ華麗なる転身
「若い女性が作ったサラダが一番おいしい」というのはセクハラオジサマ達の願望かといえばそうでもない。若い女性のみずみずしく繊細な指先で扱われた野菜サラダは、ゴルゴの作るサラダよりはおいしそうである。この繊細なタッチを生かせるのが「狙撃」だろう。
最近は「戦争は女の顔をしていない」「同志少女よ敵を撃て」など女性スナイパーについての書籍も多く見受けられるが、金融界へ転身して見事成功を遂げた狙撃手・ペトロヴィッチより、自らを「俺のような雑な男には……」と語るボルゴヴィッチがなぜか愛おしく思えてしまう。
トレーダーに不可欠な能力は勘ばたらき
日本ラグビー界の歴代名スクラムハーフの一人・宿澤広朗氏は学生時代に早稲田を日本一に導き、日本代表に選出された。その後大手銀行に就職し、為替ディーラー業務に従事した。現役時代、小柄で俊敏な宿澤氏は絶妙のポジショニングとパスワークでゲームを支配し、しばしば相手チームに歯ぎしりをさせた。
攻守併せて30人にのぼる全体の動きを把握し、予想をたて、状況により瞬時に的確な判断を下す、という能力はトレーダーという仕事に従事するには不可欠であり、速水のいう青白い顔の若者達のように机に座ったままでは到底培われない。
負の遺産しか残さない戦争という愚行
時代が変われども戦闘に関わり続けることしかできない不器用な男・ボルゴヴィッチに対し、ペトロヴィッチは鮮やかな転身を遂げ、金融経済という新たな戦場で不法行為も厭わずしたたかに利益をあげ、戦争の犠牲になった子供達を救済している。
弟の仇である彼女の利益のために命を張る矛盾に気づいたボルゴヴィッチ。弟の死はやむを得なかったと納得しつつも受け入れられないという一本気な心根には同情してしまう。一方彼女の顔の傷は癒えない心の傷の象徴でもある。このニ人が地獄で手を取り合ってダンスを踊ることを願わずにはいられない。
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野原 圭
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