この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第188巻収録。激しく対立する米中外交の裏舞台を描く力作。国益第一を貫く米国務次官補・オニールと、覇権主義を突き進む中国海軍大佐・王が海上で激突。中国海軍は原子力駆逐艦で領海を侵犯し、米艦に魚雷を打ち込むなどの挑発行為に出る……。脚本:長谷川香世
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大国間のパワーバランスに切り込むゴルゴ
グローバル時代における米中の対立を軸に、中東のジャスミン革命、そしてこの半年前に起こったばかりの東日本大震災など多くの要素を絡め、大国間の熾烈な覇権争いを緊張感をもって描き出す本話。
現実を巧みに取り込んでいく本作の真骨頂ともいえるエピソードだが、そんな中で、虚構の代表ともいえるゴルゴが一騎当“艦”の活躍で中国軍の出鼻を挫いてみせる展開は爽快である。依頼を手配したオニールが考えている通り、ゴルゴの存在はどの国にとっても切り札。一度しか使えない手段をどこに投入するかも、こうしたエピソードの醍醐味かもしれない。
アメリカから見た東日本大震災
アメリカ、中国、サウジアラビアと各国の思惑が入り乱れ、文字通り「巨人共のシナリオ」が複雑を極める本話だが、中でも東日本大震災をアメリカ側の視点から追う展開は白眉である。原発のメルトダウンや経済危機は日本だけの問題ではなく、日本の存在は大国間のパワーバランスの歯車にしっかり組み込まれているということを実感させられる。
日本の話でありながら日本政府がほとんど蚊帳の外なのは皮肉だが、こればかりは、震災から僅か半年という時期を考えると、被災者の心情を考慮して敢えて国内にはスポットを当てなかったということだろうか……。
相次ぐ領域侵犯に日本の対処は……
ゴルゴ13研究家の杉森昌武氏が文庫解説で述べているように、エコノミック・アニマルと揶揄された頃の日本と異なり、中国には経済力に加えて軍事力という武器がある。それに物を言わせた領海侵犯などの挑発行為は、本話から10年以上を経た現在でも収まるどころか激化しているのは周知の通りだ。
この解説を書いているちょうど今(2024年8月)も、中国軍機が初めて日本の領空を侵犯し、騒ぎになったばかり(※)。中国側は意図的ではないとしているが、それもどこまで本当か……。現実にゴルゴはいない中、隣国の脅威にどう対処していくかは依然として日本の課題だろう。
※出典:JBpress「中国軍用機が初めて日本の領空侵犯、中国側の『意図的ではない』の釈明は本当か」(2024年8月29日)
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東郷 嘉博
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