この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。南米・パラグアイで大規模稲作事業を展開する日本人・稲村。事業は確実に実を結んでいたと思われていた矢先に、水稲の3割近くが異様に感染力の強い新型紋枯菌に感染していることが判明し…。巨大な植物利権の裏舞台を赤裸々にえがく意欲作。
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読者の目を引く表情豊かな「偽ゴルゴ」
自身を狙うFSBのボルツ達を怯ませるため、体格の似ている稲村を「偽ゴルゴ」に仕立て上げるという大胆な策に打って出るカザコフ博士。劇画の都合と言ってしまえばそれまでだが、メイクを施された稲村の顔はゴルゴと瓜二つであり、そんな彼がゴルゴの顔をしたまま「ニヘラ」と笑ったり狼狽えたりする、非常に珍しい作画が見られる。
偽者を見抜いたつもりで本物のゴルゴに襲撃をかけ、返り討ちにされるボルツはまさに因果応報。新紋枯病を自社の試験場にも持ち込んでしまい自滅した馬といい、「策士策に溺れる」とも言えない悪役達の末路は滑稽である。
博士と稲村の本気が引き寄せた依頼遂行
相手の誠意が見えれば安値でも依頼を引き受けることがあるゴルゴ。今回も、全財産や年金をかき集めて彼と交渉しようとしたカザコフ博士の心意気に感じ入ったのか、博士の死後に現地を訪れ無言で依頼に応えている。そこには、かつて稲村がトラクターを暴走させたことで、結果的に監禁から脱出できた(それがなくとも脱出していただろうが……)ことへの恩義もあったのだろう。
ゴルゴに変装するという明らかなギルティを見逃しているのも、稲村の男気と恩に免じてのことに違いない。ラーチン大統領に「僅かな金でゴルゴは依頼に応じるわけが……」と頭を捻らせるさまは一周して痛快だ。
人類の貴重な財産は未来に繋げるのか
本話に登場するサンクトペテルブルクの植物栽培研究所(作中では植物生産研究所)は、作中の説明の通り、ニコライ・バビロフの植物種子コレクションを保存する重要な研究拠点として知られている。
作中ではその貴重な遺産をも蔑ろにしようとするラーチン政権の横暴が描かれているが、奇しくも本作の僅か半年後、ロシア軍が同じくバビロフの流れを汲むウクライナの国立植物遺伝資源センターを砲撃し、貴重な種子コレクションが破壊されたとの報道があった(※)。世界遺産にしてもそうだが、人類の財産がいかに容易く失われてしまうものかを物語る出来事である……。
※出典:有機農業ニュースクリップ「ロシア ウクライナのジーンバンクを破壊 貴重な遺伝資源を失う」(2022年5月19日)
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東郷 嘉博
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