この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス212巻収録。沖縄で物資輸送ヘリ・オスプレイの墜落事故が発生。反基地闘争が激しさを増すなか、墜落事故がゴルゴの仕業と疑う在沖縄米軍は、再び沖縄に現れたゴルゴの迎撃準備に入るが……。沖縄の米軍基地問題を軸に、沖縄の現在に焦点を絞った社会派作品の傑作。
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光り輝く明るい空と海に翳を落とす軍用機
これを読めば、沖縄基地問題のすべてがわかる、という訳ではないが、米軍基地への反対運動を切り口に、沖縄経済、出生にまつわる苦悩、基地関係者による犯罪などを、広汎かつ重層的にとらえた力作であり、沖縄を理解する入門編には充分な内容である。
軍事基地は、NIMBY(Not In My Back Yard 廃棄物処理など必要ではあるが自分の家の裏には来て欲しくない施設)にあげられる。だから軍用地として提供した多額の地代により、内地やニュージーランドなど外国で豊かな暮らしをする層と残された層との間には深刻な溝が横たわっている。
ここでもゴルゴを悩ませる厳しい自然現象
ゴルゴの最大の敵は自然条件である。いかに屈強な人間でも自然だけには勝てない。「女と自然には逆らうな」とは誰の名言であったか。日本の厳しい銃規制のため、武器を別送せざるを得なかったため、沖縄では不可避の台風による荷物の遅れは少々痛かった。
そのため米軍に囲まれ苦戦するが、ここでは逆に軍用地外での発砲が禁じられている日本の銃規制に助けられた感もある。それにしても、荷物を運んだ客室乗務員のお姉さんが、追加料金をあのゴルゴに請求するとは良い度胸である。もちろん蛇に睨まれた蛙よろしく早々に退散したのであるが。
真摯な活動に忍び寄る悲しき魔手
あのオスプレイの墜落が、比嘉の依頼によるゴルゴの仕事だったとは驚きだ。比嘉を語り手にした、基地問題や関連する沖縄経済の現在の事情の解説がとてもわかりやすい。結末はあまりに苦すぎるが、疲れた、という比嘉の気持ちも理解できる。
市民運動で最も大切なのは「信頼」だが、自分が基地問題に関して有効かつ有力な存在になるにつれ、周囲を疑わなければならなくなる矛盾に絶望したのだろう。万里亜の涙がほんのわずかの救いである。琉球の羊にはウチナーンチュ、ヤマトンチューだけでなく、羊の皮をかぶった狼も潜んでいるのだった。
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野原 圭
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