この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第209巻収録。南米の国際情勢の移り変わりを背景に、ボリビアの先住民運動や少年兵による武装蜂起などを扱った社会派サスペンス。トリック仕立ての構成で真相が最後の最後までわからない。読者参加型の推理サスペンスといった側面もある作品。
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鶏が先か卵が先か、いつまで続く負の連鎖
分断が貧困を招くのか、はたまた貧困が分断を呼ぶのか、この負の連鎖は南米の貧困にも共通するようである。ボリビアが抱える、先住民族と移民族、その混血民族の間の利害の対立による分断、国をまたいだ道路建設など開発に伴う先進国同士の利権争い。
さらに子供兵士・児童労働といった複雑で多岐にわたる問題を、飛行機でゴルゴと隣り合わせた商社マンやマルコ副大統領、ムニョス大統領、それぞれの立場から語らせ、うまくまとめている。ファストファッションなど安価な通販の衣類の製造国を調べてみるとボリビアの名がみえるかもしれない。
もてはやされ、恐れられる「若さ」の魔力
「若さ」は、なぜ人々を熱狂させるのだろう。文学賞などでも、同じレベルなら若い方が選ばれる傾向があるという。青々した若い芽の旺盛な生命力に、大きな希望を見いだすのかもしれないが、枝も伸び放題にさせればハビエルのように害になることもある。
日本では、個人の業績は「若くして」と枕がつき、組織では地位を脅かされる年寄りから往々にして「若いくせに」と叩かれる。だから選挙の投票率が低空飛行を続け、政治的無関心が広がる日本の状況に対し、周囲を説得し大人と堂々と渡り合うハビエルにはまぶしさを感じてしまうのだった。
悪いのはコカの葉ではなく人間
ハビエルのいうとおり、コカの葉自体は、お茶にしたりそのまま咬んだりしても害はない。清涼飲料の名前にさえ採用されているくらいだが、そこに悪知恵を働かして化学変化をもたらして麻薬にするから悪いのであり、ハビエルを追い込んだのもやはり貧困の悲しさだった。
ところで、今回の狙撃も『夢の国』同様かなり高難度の技が必要だったのではないだろうか。傷のない毛皮を捕るため、エスキモーの狩猟の達人はトナカイの前足の蹄を撃って倒すという。致命傷ではなく適度の負傷をさせるよう狙撃するのは、さしずめこのような技なのだろう。
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野原 圭
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