この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第122巻収録。映画の名脇役としてキャリアを積んできた名優・レイス。その彼に一世一代の主役の座が巡ってきた。暗黒街に返り咲くため、妻を殺してしまう男を演じるレイスだったが、どうしても役になりきれない。苦悩するレイスを見た妻のリサは、自分が悪性腫瘍に蝕まれていることを告白し、ある提案をするのだった……。脚本:ながいみちのり
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映画のエキストラは気楽でいいもんだ
人もうらやむ女優・俳優業、好きでこの道に入ったものの、売れない時代はつらいし、売れたら売れたで評判が落ちることへのプレッシャーは言葉に尽くせない。何とも因果な商売だ。長年のバイプレーヤー・レイスに一世一代の主役が回ってくるがクライマックスの演技に悩む。
主役は俳優として憧れるだろうが、セリフは多いし責任も重い。黒澤明「まあだだあよ」で主役を演じた松村達雄など「主役は2度とやりたくない」と思ったかもしれない。今作は「人を欺く嘘」ではなく真の深い愛情に満ちた「優しい嘘」をテーマにした極上の短編である。
苦しみを知る戦友同士
俳優同士の結婚はうまくいくか、即破局するかどちらかのケースが多いように思うが、この2人は前者だったのだろう。日本では、高峰秀子・松山善三、岩下志麻・篠田正浩など女優と監督のカップルはほぼ例外なくうまくいっている。
夫が撮りたい映画のためには代議士の妻だろうが極道の妻だろうが体を張り、夫は心から感謝する、という構図ではないかと思われる。大島渚の妻・小山明子は地方ロケ中に金欠になると、地元テレビ局のコマーシャルで稼いだという。男女の賃金格差が叫ばれるが、家族円満のためには女性の給料を高くした方がいい。
最後に笑ったのは誰だ
「一発撮りよ、レイス。きめてちょうだい」リサのこのセリフとゴルゴの銃弾。超一流のプロフェッショナル2人の競演により、迷えるレイスの心にスイッチが入り、究極の緊張感の中で得た感覚を最高の形で生かす。
リサの命がけの願いを見事な演技に昇華させ、彼女の気持ちに応えて俳優として有終の美を飾ることができたレイス。リサの優しい嘘に気づき、この世に思い残すことがなくなった彼が選ぶ道はただ一つ。ラストは不謹慎ながら、人の死さえも興業ネタにするハリウッドの映画関係者にとっては、笑いが止まらないような結果となった。
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野原 圭
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